珍しいこともあるものだ、と思った。

「神田とケンカした?」

部屋で本を読んでいたら扉を叩く音が聞こえ、招き入れた客は同い年の少女。ロウは不機嫌そうに頬を膨らませて唇を尖らせている。

「へぇ、アンタたちでもケンカするんだね」

「……僕悪くないもん」

とりあえずベッドに座らせてその隣に腰を下ろし、不機嫌顔での訪問の理由を尋ねた。すると返ってきたのは、ユウ兄とケンカした、という短い言葉。
きっかけは些細なものだったのだが、どうしてか二人とも意地になって言い争いをしてしまったらしいのだ。

「あるよねぇ、そういうこと」

「僕悪くない」

「はいはい」

あたしにも兄がいるからよくわかる。後から考えればとてもくだらないことにこだわって、大切である筈の人に暴言を吐いてしまうのだ。……あ、別にお兄ちゃんに限らずわりとあるわ、そういうこと。

「…だけどね、そういうのに良いも悪いもないんだよ」

「クラ…?」

「喧嘩両成敗…ってわけでもないけどね。ケンカした相手が大切な人なら、出来るだけ自分から謝ったほうがいい」

「……クラなら、ちゃんと謝る?」

「んー、まぁ相手にもよるけど」

正直、絶対に先に折れてくれるとわかってる相手…例えば親友などには、絶対先に謝ることはしない。そもそも、そういう相手とは後で困るようなケンカをしないのだ。
逆に兄や某最年少国家錬金術師などとは、結構後になって悔やむようなケンカをしている気がする。大体がくだらない理由で。

「大切な人とケンカした後って、胸のあたりがこう、もやもやーってするんだよね。それが嫌だから、さっさと謝っちゃう」

「……」

「ケンカしてるうちは、顔合わせても気まずいし」

「…………」

「時間があけばあくほど謝りづらくなるんだよね」

「………………」

ちらりと隣を見れば、俯いたロウはこちらの言葉が効いているようではあるが、未だ拗ねたような顔をしている。やれやれと溜め息をついた。





意地っぱりは手ごわいね





正直言えば、神田のためにロウを謝りに行かせる筋合いはない。ロウとイチャラブ出来なくて嘆けばいいさはっはーとさえ思っている。
けれど彼女を宥めようとしているのは、他でもない、ロウの浮かない顔を見たくないためだった。シスコン神田を見ていると時折イラッとくるが、この兄妹はやっぱり仲良しでいてほしいから。

「ま、落ち着くまではここにいなよ。謝りに行くかどうするかは、頭冷えてから考えればいいんだし」

「……うん」

すれ違ったまま二度と会えなくなることの後悔なんて、知ってほしくはないから。






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