「バレンタインチョコが欲しい?」
組み手に付き合ってくれ、とラビに頼んだ際に交換条件に出されたのは、彼の相談に乗ることだった。
修練場の片隅、組み手を終えて床に腰を下ろしてから口を開いたラビの第一声に、クライサは大きく顔を歪めた。バレンタインチョコが欲しい。クライサから、というわけではない。それなら彼女はこんな顔をすることはないのだが(笑顔で拒否するから)。
「どうしても欲しいんさ!ロウから!」
……そう。彼はロウからのチョコが欲しいと言うのだ。それも本命。
是非とも『ああそうですか』で終わらせたいところだが、ラビはそれでは納得しない。面倒くさい。
「直接頼めばいいじゃん」
「それじゃダメなんだって。これだから女は……」
「じゃあ何だったらいいんですかねクソ野郎」
ラビが言うには、クライサにはそれとなくロウに『ラビにあげなくていいの?あげるんでしょ?』的なことを言ってチョコを作るよう誘導してもらいたいそうなのだ。馬鹿か。
「アンタは本命チョコが欲しいんじゃないの?」
「だからそう言ってんじゃん」
「……。あのね、普通本命がいる人は、わざわざ周りが言わなくても作ってあげるものなの」
「ツンデレは違うさ。周りが背中押して初めて作るってタイプが結構いるだろ」
「そりゃそうだけど、少なくともロウはそういうタイプじゃないでしょ。素直に作ってくれる筈だよ」
「作ってくれなかったらどうすんだよ」
「それはラビがチョコあげる価値もないって思われてるってことだよ」
「うわ、それマジで凹む…」
まあ、とりあえず彼の望み通りにしてやろうか。誘導まではいかないものの、一緒にチョコ作ろうと誘えばロウは必ず乗ってくる。本命になるか義理になるかはラビ次第だ。
「ちなみにクラはチョコくれんの?」
「あげるよ。ホワイトデー狙いで」
「……ああ」
一体何倍返しさせられるのかと青ざめたラビの向こうに見慣れた人物が現れたのを、クライサが視界にとらえた。
相談相手は選びましょう
「そうそう…この話、ユウには絶対言わないでく…」
「あ、神田ー!今年のバレンタイン、ラビがロウからの本命チョコ狙ってるってー!!」
「あ?」
「クラ!!!!」