「というわけで、八つ当たり気味にぶちのめさせてください」

「いい度胸だな、チビ」

「クラ、せめてもう少しオブラートに包むさ」

ところかわって鍛練場。
腹ごなしに体を動かそうとやって来たのだが、右手を高々と挙げたクライサのおかげで、またも戦闘勃発が確定した。
殴らせろと言って素直に殴らせてくれる神田ではない。一発ぶち込むのに対して三、四発は返ってきそうだ。

「じゃあ僕と手合わせしようよ。最近たたかってないからヒマなんだもん」

「ごめんロウ、あたしまだ死にたくない」

「?手加減するよ?」

「さすがのあたしも、組み手中に六幻が飛んできたら避ける自信無いや」

組み手だろうが何だろうが、間違って彼女の体に傷の一つでもつけようものなら、地獄への片道切符が強制的に送り付けられそうだ。
もちろんただ殺されてやる気もないが、シスコン兄貴を相手にするのはぶっちゃけ面倒くさい。

「八つ当たりならそこの馬鹿兎にすればいいじゃねぇか。喜んで引き受けてくれるだろ」

「何そのオレどM発言!!ちょっと待つさユウ!!」

「あー、それもそうだね」

「クラも納得しないでくれる!?ロウも頷かないで!!」

いやだあぁぁと悲鳴を上げるラビを引き摺っていくクライサを見送って、幾分低い位置にある妹の頭を見下ろした。
向けられた視線に気付いた少女が振り返り、不思議そうに見上げてくる。そのきょとんとした幼い表情がこの上なく可愛くてふっと笑みを零す。

「あのチビが気に入ったのか」

「うーん……気に入ったっていうか、気になったっていうか」

「そうなのか?」

「不思議な人だよね」

「……まあ、変な奴ではあるな」

手を伸ばし、さらさらとした髪を撫でる。心地良さそうに目を伏せた少女に、愛しさが胸いっぱいに広がった。

「……まぁたラブラブしてるし」

赤髪の青年に容赦のないどつきをかましながら、兄妹に目を向けたクライサが言った。
少女の拳やら蹴りやらを必死に防ぎながら、ラビがそれに同意する。どうやら彼らのあのやり取りもいつものことらしい。





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