三年ぐらい前になるだろうか、まだ病院にいた頃の自分に、ロウは似ている。
兄を含む二人以外、話すことも出来なかったあの頃の自分と重なる。
あの時の自分のように、彼女にも何か、心を閉ざしてしまうようなことがあったのだろうかーー
そこまで考えて、やめた。
「クラ?」
どうかしたか、と隣から覗き込んできたラビの声に、なんでもないと笑って返す。そして自分にも、深く考えるべきでないと言い聞かせた。
異世界の住人である自分にとって、これ以上の詮索は無意味以外の何ものでもない。
「あ」
カラン、と小さな音に合わせて少女が声を上げた。見れば、ロウが箸を落としたようだった。
「何やってんだ」
「ごめんユウ兄、手ぇ滑っちゃった」
「しょうがねぇな。新しいのに替えてくる」
箸を拾って立ち上がった神田は、ロウの頭をひと撫でして歩いていった。
「……神田ってシスコンだよね」
「それ本人には言うなよー。ユウ怒るから」
そのやり取りをぼんやり見送って、からかいの言葉をかけるのをつい忘れてしまった。そのくらい自然だったのだ。彼の『兄』の姿は。
「ちゃんと『お兄ちゃん』なんだね。ロウのこと、守ってんだ」
「どうしたの?チビ」
「そっかー、神田も兄馬鹿かぁ……」
チビと呼んでも反応しない彼女に、さすがのロウも不審に思ったのだろう。ラビと同じように首を傾げ、心配そうに見つめている。
「……いいなぁ」
「え?」
「なんでもないよ」
神田が戻ってくるのを視界の隅にとらえて、漸くクライサは笑みを浮かべた。ラビだけは、それが貼り付けたものだとすぐに気付いたが、『いつものように』何も言わなかった。
疑問を抱いたままだったロウも、兄が席に戻ってくればコロリと表情を変え、渡された箸を受け取って嬉しそうな笑顔になる。
それに返す神田の顔に微笑みを見つけて、クライサの笑みが微かに雰囲気を変えた。
(言えるわけない)
目の前で交わされる兄妹のやり取り。
妹の屈託無い、信頼しきった笑顔。
兄の穏やかな、柔らかい表情。
それらは、いつの日かの自分と兄を思い出させる。
ーーそして、今の自分では到底手に入らないのだと思い知らされる。
(寂しい、なんて)