「おー、今日はクラの勝ちかー」
感心したような口調でラビが言うが、本人は遠くを見るような目だ。リナリーも苦笑する気も無いような様子で少女らから視線を外し、ロウの頭を撫でている。
この喧嘩という言葉でまとめてしまうには激し過ぎる戦闘が日常茶飯事のように繰り返されるのだから、彼らの反応も仕方のないことなのだが。
「さて、邪魔者も片付いたことだし、挨拶の続きね」
額からじくじくと血を流して笑顔で振り返ったクライサの姿に、どんなホラー映画さ!と胸の内で叫んだラビが青ざめた。
どれも浅い傷だとはいえ、血みどろの状態で初対面の挨拶を続けようとせんでください。相手が引くとは思わないのだろうか。
というか、兄がとにかく大好きなこのロウが、今さっきの戦闘シーンを終始見届けてなお、目の前の少女と仲良くしてくれるとは正直思えなかった。
最悪、今度はこちらとのバトルが発生してしまうかもしれない。青ざめたまま二人を眺めていると、空色のほうの少女が手を差し出した。
「よろしく、ロウ」
どうやら握手を求めているらしい。戸惑った様子でその手と彼女の顔を交互に見ているロウに、やはり無理か、と内心で呟く。
人見知りが酷く、初対面の相手に対する警戒心が強い彼女が、出会ったばかりの(そしてたった今最愛の兄をぶっ飛ばしてみせた)クライサに触れるなんて、いっそ想像もつかないぐらいだ。
手を出したほうの少女もそれは承知しているらしく、相手の反応に苦笑いはしたが機嫌を損ねた様子は無かった。
しかし、不安気に見守っていたリナリーとラビ、そしてクライサは目を見開いた。
「……よろしく」
ロウが、差し出された手を握ったのだ。
恐る恐るといった様子ではあったし、返した声も小さかったが、確かに少女の手に触れたのだ。
それがあまりにも意外過ぎて言葉を失ったラビとリナリー。緩く手を握り返したクライサは嬉しそうに笑った。
「ユウ兄にあんなことした人、初めて見たよ」
「あははー。や、戯れみたいなもんだけどさ(結構本気で蹴ったけど)」
「強いんだね、チビ」
「チ……」
「(ロウ!!)」
「(あっさり禁句を!!)」