ふと、肌がざわめく。
一瞬にして空気が変化し、息を詰めた途端、背後で火柱が上がった。
先のラビのもの程ではないが、それでも大きい。同時に膨れ上がった殺気を背中に浴びて、それがアクマのものだと振り返らずともわかった。
エクソシスト、と血を吐くような声を浴びせられ、背後の熱が大きくなる。炎の能力でも持っていたのだろうか。巨大な殺気が襲いかかってきた瞬間、あたしはニィと笑った。
「氷雨(アイス・レイン)」
微動だにしないあたしの体を掠ることもせず、迷いの無い速さで氷の刃が通り過ぎる。ひゅ、と耳に残った風切り音。それに重なった少女の声は、けして大きくなかったが凛としていて、背後で上がったアクマの断末魔を掻き消した。
「とりあえず、この辺りのアクマは全部倒したみたいね」
「なんだ、物足りないな。数ばっかいても一体一体が弱すぎるよ」
「まだ森の中心部…村のほうには残ってる筈よ。油断しないようにね」
「りょーかい」
ちらりと、斜め前を行く少女を盗み見る。
前を見据える目は強い光を帯び、それはちょっとやそっとのことでは消えそうにない。
先程の立ち回りで確認したが、なかなか戦闘慣れしているようだ、動きに躊躇いや迷いが無い。実力は申し分無い。評価の厳しいあたしの中でも、なかなかの好評だ。
(でも、そのくらいじゃなきゃエクソシストなんてやってられない…かな?)
まだまだ本気を出してはいないようだった。必要最低限の動き、攻撃のみで数えるのも億劫になりそうなアクマの群れを消してみせた。思っていたより面白そうかもしれない。
「あたしの評価はどんな感じ?」
そんなことを考えていたところでいきなり視線がこちらに向き、思わず足を止めた。多分、目も丸くなってる。
強気に微笑んだハルを見て、漸くあたしも笑顔を作ることが出来た。
「うん。なかなかの好評価だよ」
「それは良かったわ」
ニコリ。その笑顔に含まれたものを読み取って、彼女が再び前を向いた後、密かに嘆息する。
鬱蒼と生えた木々の合間を縫って村に辿り着くと、そこにいたのは青年二人だけで、アクマの姿は見当たらなかった。