……あ、もしかして。
「はっはーん」
「な、なんだよ…」
ある考えに思い至ったあたしは、ニヤリと笑って男に歩み寄った。いや、たまたま進んだ方向に彼がいただけで、彼に近寄るのが目的ではない。金魚の泳ぐ浅い水槽の裏に回り身を屈めると、男は急に慌て出した。
「イカサマだと言い張るってことは、たくさん金魚をすくうのは不可能だ、って根拠があるっつーことだよね」
ひょい、と拾い上げたのは、金魚すくいには欠かせないアイテム(『ポイ』っていうんだっけ?)。プラスチック製のフレームに紙のようなものを張った、ルーペに似た形をしたものだ。
それをあたしの目線の高さまで持ち上げると、彼の焦りは頂点に達した。うん、やっぱり予想通りのようだ。
「なーるほど。水に触れただけで破けるぐらい、薄い紙を使ってるんだね。ダメだなぁ、こういうのに細工しちゃ」
これではまともに金魚をすくうことなんて出来ないだろう。こんなせこくて汚いやり方をしてまで金を稼ごうとする奴が出てくるなんて、何だか悲しくなってくるよ。
「こりゃ厳重注意じゃ済まないね。司令部までご同行願おうか」
往生際悪く逃げようとしたものだから、片腕をつかまえて素早く捻り上げてやる。そこで笑顔と共にこう告げてやると、彼は観念したように項垂れて促す通りに歩き出した。
処罰やら後処理諸々は担当の者に任せたほうがいいだろう(今回のあたしの仕事は、あくまで警備という名の危険分子の抹殺だから。っていうか何より面倒くさい)。
男の連行を近くにいた憲兵に任せると、野次馬たちが散っていく中、先程の青髪の少女と向き合った。
「助かったよ。ありがとねー」
楽しそうな笑顔でそう言った彼女に、あたしは肩を竦める。
「そうだね。あのままだったらアンタ、あの人ぶっ飛ばしてただろうしね」
「そーそー。もうちょっとで我慢の限界迎えるとこだったよ。周りにいたか弱き女の子たちも巻き込んじゃってたかも」
多分、あたしが彼女の立場で周囲に野次馬がいなければ、迷いなくあのオヤジをぶん殴ってた。今回は言葉で叩いてみたけどね。やっぱり武力解決のほうが数倍楽だ。