問題が起こっているらしいのは出店の一つだった。金魚すくい屋と見られるそこで言い争う人物たちを、集まった通行人が遠巻きに眺めている。

「絶対おかしい!てめぇイカサマしてんだろ!!」

「金魚すくいにイカサマも何もないでしょーに。っていうかイカサマしてまで金魚すくおうなんて思わないって」

人混みを掻き分け前に出ると、漸く人々の視線の中心にいる人物を確認出来た。
一方は金魚すくい屋の主と見られる、どこにでもいそうな少々ガラの悪い男。
もう一方は、布に包まれた何かを背負った、あたしと同じくらいの年頃の少女。海のように青い長髪を後頭部でくくった、目立つ風貌の人物だった。

「ちょっとちょっと、何やってんのさ、そこの二人」

声をかけると、その二名と周囲の野次馬たちがこちらに注目した。たくさんの視線を浴びることになるが、そんなもんにはとうの昔に慣れた。
それに大勢の視線なんかより、こちらを見た彼女のアメジスト色をした左眼のほうが、気になったから(右は前髪に隠れていたけど、左とは違う色をしているようだ)。

(青い髪にアメジストの眼…?)

覚えがあった。実際に顔を合わせたことは無いけど、多分前に大佐が話していたことがあったと思う。
こちらを向いた彼女も、あたしを見るなり何かに気付いたようだった。

「テメェは…!!」

「テメェ?」

「…い、いや、あんたは!!」

金魚すくい屋のオヤジも、あたしが誰かに気付いたらしい。まあ、この髪を見て気付かない奴のほうが珍しいけど(なんたって、この街はあたしの庭みたいなものだから)。

態度を改めた男に何があったのか説明しろと促すと、彼は少し躊躇ってから、渋々といった様子で語り出した。
まあ、大体は先程彼らが言い合っていた内容でわかったけど、青髪の彼女があまりにも金魚をすくいまくるものだから、ズルしてるのでは、とオヤジが言い出したらしい(どうでもいいことこの上ない)。

「そんなに怒鳴ることじゃないじゃんよ。この人が金魚すくいの達人だったとか、たまたま運が良かったとか…」

「いや、絶対にイカサマしたんだ!そうに決まってる!!」

「何回言わせんのかなー、金魚すくいごときでそこまでしないって」

青髪の彼女も呆れた顔で溜め息をついている。
そりゃそうだよね。店の金魚を全部貰っても大して嬉しくないし(子供たちは喜ぶかもしれないけど)、言いがかりもいいとこだ。






[index]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -