「おにーさん方、いいこと教えてあげるよ」
なお向かってくる男たちだが、両掌を合わせたカノンの後ろから顔を出した少女の言葉に、一瞬にして固まった。
「こちらにおわす光の錬金術師殿。得意な錬成は氷や水の他、電気なんてのもあるんですよ」
男達は頭からびしょ濡れ。
足元も水溜まりに。
一気に青くなった彼らとは真逆に、少女らの笑顔は一層深くなった。
既にカナタが騒ぎを起こしていると聞き、三人でオークション会場に向かって。程々に暴れてやったところで、クライサの部下である軍人たちが乗り込んできて。
参加者たちや、あの大部屋で気絶しているミッドウェイたちの捕縛は彼らに任せ、少年少女は建物を出た。
「やっと終わったー!あーもう、こういう服って肩凝るから嫌なんだよな」
「同感。ああいう雰囲気も好きじゃないし、こんな仕事当分したくないね」
心底面倒くさそうに言う少女らに、エドワードとカナタは苦笑した。
クライサは結っていた髪を解くと、カノンの左手を握る。
「憂さ晴らしってわけじゃないけどさ、ちょっと付き合ってよ」
「付き合うって?」
「これからうちにご飯食べに来て。カナタも、あとついでにエドも」
「「もちろん!」」
「オレはついでかよ」
嬉しそうに笑ったクライサは、カノンの手を引いて駆け出した。向かう先は、迎えの車が停まっている場所とは反対方向。顔を見合わせたカナタたちがその後を追う。
「クライサ!方向が違うんじゃ…」
「普通に戻ったら、事後処理で帰りが遅くなるかもしれないでしょ」
「へ?」
「リオンに頼んで、こっそり車待機してもらってるんだ。着替えも持って来てる」
してやったり顔で振り返ったクライサに、三人同時に吹き出した。まったく、よく考えたものだ(そしてリオンもよく付き合ってくれたな)。
報告もせずに急に姿を消すな、と後日ロイに叱られることはわかっているけれど。目の前の楽しみを拒むなんて、出来ないから。
本日大活躍の少年少女らは、心の底からの笑顔で友人の車に乗り込んでいった。
END.