「ざっと30人。いけるよな」
「あー…ちとキツいかも」
「は?」
「いや、いつもなら余裕だけどさ。今の格好じゃ、普段の半分くらいしか動けないし」
「だったらそんなもん着てくんなよ!何のために来たんだお前!」
「うるさいなー文句は大佐に言ってよ、これ選んだのあのバカ大佐殿なんだから」
二人が言い合っている間にも、彼らを囲む円は徐々に狭まってくる。このままでは、冗談ではなく捕まってしまうかもしれない。薬漬けにされてどこの馬の骨とも知らない人間に売られるなんて、死んでもごめんだ。
クライサが両手を合わせ、男たちが腕を伸ばした時、バチィ、と激しい音が室内に響いた。
「!?」
天井に吊られた巨大なシャンデリアが突然爆発し、破片が降りかかってくる。爆発そのものの衝撃は少ないが、降ってくる破片はなかなか危険だ。
クライサとエドワードを囲んでいた男たちは散り散りになり、部屋の隅へと駆けていく。中央に残された少女らはといえば、クライサがドーム状に錬成した氷の中で、しっかり破片を防ぎきっていた。
何が起こったんだと慌てふためくミッドウェイや男たち。もう一度手を合わせて氷のドームに穴をあけ外へ出たクライサとエドワードは、開いた扉の向こうに立つ人物に目を向ける。彼らと同じ方向を見たミッドウェイが、大きく目を見開いた。
「光の錬金術師、カノン・ヒオウ参上ー」
「なっ…なんであなたがここにいるんです!?眠っていた筈じゃ…」
「フリに決まってるだろ」
青いドレスを身に纏い、黄緑色のツインテールを揺らす少女、カノンがそこに立っていた。
どうやらクライサたちがここに連れて来られる前に、彼女とカナタは捕らわれていたらしい(まあ、フリをしていただけのようだが)。
ミッドウェイが怒鳴り声を上げると、男たちは武器を持って少女らに向かってくる。クライサが身構え、エドワードが機械鎧を甲剣に錬成したと同時に、カノンが両手を叩いた。男たちの頭上から、大量の水が降ってくる。それはエドワードたちだけを避けて室内にいた全員を濡らし、彼女の意図に気付いたクライサが、水が足元を覆う前にエドワードを連れて部屋の外に出た。
びしょびしょに濡れた室内。少女らを捕らえんと駆けてくる男たちに、カノンが立ち塞がった。
「アイザック・ミッドウェイ博士、及びその部下さんたち。大人しく投降する気は無いか」
「そんな気があったら、そもそも闇オークションなんて開きませんよ」
「まあ、そうだろうな」