「カノンもいることだし、せっかくだから君たち二人で行って来たまえ」
「はあ?」
いつものように書類の処理に励んでいると、有無を言わせない口調で上司が言った。
顔を上げれば、彼は笑顔でこちらを見ている。差し出されたのは一枚の紙。
その笑顔の意味を読み取った少女は、また面倒なことを押し付けられるのか、と深い溜め息を吐き出した。
光氷の円舞曲
ところ変わって東方司令部司令官室。
そこの主であるロイは、机の向こう側に立つ少女らに一度目を向けてから、手元の封筒に視線を落とした。
「君たちはミッドウェイ博士を知っているだろう?」
「ミッドウェイって……アイザック・ミッドウェイ?総合物理学の権威とか言われてる」
「そう。そのミッドウェイ博士だ」
先日、ロイの元に彼からの手紙が送られてきた。
何でも、長年続けていた研究が最近ついに完成したので、その祝いにパーティーを開くつもりなのだそうだ。それで、もし良ければロイにも参加してもらいたい…と手紙には書いてある。
「他に招待されているのは、おそらく科学者仲間や軍の高官ぐらいだろう。私が呼ばれているのも、この地位ゆえだ」
封筒から取り出した一枚の紙を、彼は正面の人物へと差し出した。それを受け取ったのは、空色の少女。東部では知らない者はいないと言われている氷の錬金術師、クライサ・リミスクだ。
「ふーん……で?あたしたちに行って来いって言ったのは、このパーティー?」
「そうだ」
彼女はその文面にさらりと目を通すと、隣に立つ人物へと手渡した。それを受け取り、同じように文に視線を落としたのは珍しい翡翠色の髪を携えた少女。国中で名の知れた『光』の国家錬金術師、カノン・ヒオウだ。
「目的は?まさか、単にパーティーを楽しんでこいって言うんじゃないだろ?」
彼女の言葉に、ロイは動揺一つせず笑みを浮かべたまま頷く。同時に、少女らは揃って溜め息をついた。