「バカ大佐!部下を本気で攻撃するか普通!?」
「上司を足蹴にするか、普通」
「?するでしょ、普通」
「……クライサとオレとでは、『普通』の基準が違うみたいだね」
部下たちに囲まれ呼び掛けられてなお、ロイが目を覚まさないことを確認すると、カノンたちは改めてそこを去るべく走り出す。
その場に居合わせた街人たちはみな、苦笑で彼女らを見送った。
さて、何して遊ぼうか。
そう問うと、カノンは上着の内ポケットから小さなメモを取り出した。
「グレンテリアにさ、東部過激派のアジトがあるんだ。ロイには止められたんだけど、潰しに行こうと思ってる」
だからクライサには悪いが、遊んでいる暇は無い。カノンの言葉に、クライサはニッコリと笑みを浮かべた。
「なーんだ。いい遊び、知ってるじゃん」
「は?」
「行こうよ、アジト潰し」
ショッピング行こうよ的なノリで告げられて、カノンは目を丸くした。そして、理解した。
(ああ、これが『暴れ馬』か)
強気な目、楽しげな表情、自信に満ちた口調。いつだったか、氷の錬金術師のことを尋ねた時の、ロイの言葉が思い出される。
『君とは会わせたくないな』
苦笑いと共に告げられたそれを、今なら理解出来る。
クライサとカノン、向かうところ敵無しの二人を、(たとえ命に関わる危険なものでも)面倒事に首を突っ込むことを止められる者はいない。ロイですら、彼女ら二人を引き止めることは不可能だろう。
「『小さな暴れ馬』の噂通りだね、氷の錬金術師」
「やだなあ。『暴走女神』程じゃないよ、光の錬金術師」
結構似た者同士なのかもしれない。
今後のロイの苦悩を思い浮かべ(しかし、すぐに打ち消して)、二人して声を上げて笑った。
END?
・おまけ・
「……それで?」
「潰してきたよ、グレンテリアのテロ集団」
満面の笑みを浮かべる少女二人に、呆れた溜め息しか出ない。
執務室、机に両肘をついて手を組んだロイは、彼女らを交互に眺めて、もう一度盛大な溜め息を吐いた。
「……カノン。私が止めた理由は覚えているか?」
「理由?……あったっけ、そんなの」
「テロリストたちを暫く泳がせて、銃器を提供している者を引き摺り出す……と、言ったな?」
「あ」
「え」
「……暫く残業続きといこうか、二人とも」
「「…………はい」」
END.
【H20/02/28】