「あのさぁ、お兄ちゃん」
いくら何でも、これは無いんじゃないか?
向けられた銃口を一周してから、その後ろに立つ兄へと視線を向けた。
「安心しなさい。腕の良い者ばかりを集めてきたからな」
「何が安心なんだよ」
拳銃を握り、軍服に身を包んだ男十数名に囲まれて。クライサは腕を組み、カノンは腰に両手をあてて溜め息をつく。
そりゃあ、新米兵と違って、誤って発砲された結果大怪我を負わされるーーなんて心配はないけれど。
「参ったな。君がカノンと会う前に、彼女を確保したかったのだが」
「こうなることが予想出来たから?」
叩き合わせた両手を地面につくと、クライサとカノンの立つ場所を中心に男たちへ向かい棘が突き出た。怪我をさせるのが目的ではないため、速度は遅い。
兵たちが怯むやいなや、カノンが地面を蹴った。
「クライサ、こっち!」
「りょーかい!」
高く飛び上がり、銃を手にした軍人三名に蹴りを入れ、円の欠けた箇所から駆け出す。素早く立ち上がったクライサも彼女の後を追い、ロイに背を向けた。
商店街のど真ん中で事を起こしているのに、街人たちの中に迷惑そうな顔は見当たらない。どちらかと言うと『楽しそう』が当てはまりそうだ。
「待ちなさい、二人とも!」
待てと言われて待つわけないだろう。
駆ける足をそのままに、顔だけを背後へ向けた彼女らの目が、大きく見開かれた。
向けられたのは、銃口でなく、指先。白い手袋に包まれた、擦り合わされた、指。
爆音。
街中だということを考慮し、小さめの爆発で済まされたため(いや、本来は爆発など起こしてはならないのだが)、被害はほとんど無さそうだ。
煙が辺りを覆い、街人がざわめいている。
徐々に薄れていく爆煙を切り裂いて、ロイの目に映ったのは、足。
「こんの考え無しアホ馬鹿無能大佐ぁッ!!!!」
「ぐふあッ!!!!」
妹の飛び蹴りをまともに(顎に)食らい、十メートル余りふっ飛んだロイに、哀れそうな目をカノンが向ける。
もう一人の彼女はと言えば、近くを転がっていた木箱に片足を乗せ、腕を組んで憤っていた。