「ねえ、こんな所で何してるの?」

人目につかない路地裏の、更に物陰に隠れる少女。
初めて見る珍し過ぎる髪色(自分も他人のことは言えないが)に、何か引っ掛かるものを感じながらも、彼女同様身を屈めて問いかけた。

「……隠れてんだ」

「隠れてんの?」

「そう」

「ふうん」

話が進まない。
いや、むしろ進める気がない(お互いに)。

彼女が隠れている理由も、誰から隠れているのかも訊かず、先程感じた『引っ掛かるもの』を探っていると、不意に少女が顔を上げた。かと思えば、更に身を屈め息を潜める。
何事かと、物陰に身を隠したまま周囲に注意を向ければ、その理由に思い至った。

(……あ)

もしかして。聞こえた声と音に、推測は確信へと変わる。

「ちょっとここで待ってて」

「は?」

「逃げたら、憲兵につき出すから」

逃げられたなら、つき出すも何もないだろう、なんてこたはわかっているけれど。
脅すようで脅せていない言葉を残して、クライサは路地を後にした。





「お兄ちゃん」

「やあクライサ、奇遇だな」

あの少女がいた路地から少し離れた通りに、見慣れた人物を先頭にした男たちを発見した。
先程聞こえた声は、クライサの予測通り、彼ーーロイ・マスタングのそれであり、音は、大勢の人間が駆けるそれ。
彼女の姿を確認し、一斉に敬礼をした兵たちに簡単に挨拶を返し、兄へと目を向ける。

「何か事件?」

「いや、人探しだ」

やはりか。
大方彼女だろう、と先程出会った少女を頭に思い浮かべつつ、続いての疑問を口にする。一体誰を探しているのか、と(もしかしたら、彼女の正体がわかるかもしれない)。

「君と同じくらいの年齢の、黄緑色の長髪の少女だ。名前はカノン・ヒオウ」

(カノン…?)

容姿は、あの少女と合致している(やはり探していたのは彼女らしい)。その名を耳にして、抱いていた疑問が解消された。

「それって…」

「ああ。『光の錬金術師』だ」

ロイの命により、東部各地を飛びまわっていると聞いたことがある、国家資格を持つ錬金術師。
たまに報告のため東方司令部にやってくるのだが、クライサは何故かいつも視察やら非番やらで、会ったことは一度も無い(意識的に避けられているのでは、と思ったこともあるが、全くの偶然らしい)。
黄緑色の髪に、銀灰色の双眸。
そうか、何だか覚えのある容姿だと思ったら、噂の『暴走女神』だったか。





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