イーストシティは雨。
ここ最近はずっと快晴続きだったのだが、その反動のように、昨夜から降り続く雨は止む気配を見せない。

そんなある日の午後、二度のノックの後に上司の執務室に足を踏み入れた少年は、室内のもう一つの気配に気付いて目を瞬いた。
それは部屋の手前、こちらに背を向けた来客用ソファーの上。

「……リオンが寝てる」





ひと休みの雨





革張りのソファーに横たわる彼を見下ろして、元々大きな目を更に見開いた。
思わず口をついて出てしまった声に慌てるが、リオンは目を覚ます様子もなく眠り続けている。
ほ、と胸を撫で下ろす。

正直、意外だった。
彼が人前で無防備に眠っていることや、そばに自分が立っていても目覚めないことが(彼は人の気配に結構敏感なのだ。某氷の錬金術師ほどの野生動物的な鋭さではないが)。

窓を叩く雨の音、遠くに聞こえる部下たちの声、眠る彼の静かな吐息。
そっと手を伸ばし、少々やつれたように見える少年の額に触れる。
それでもリオンに起きる気配は無く、何だか無性に心配になってきた。

と、不意に扉が開かれ、伸ばしていた手を引く。
室内に入ってきたのはここの主であり、自分たちの上司で、相手もこちらを見て少し驚いたようだった。

「シアンか。どうした?」

「あ…その、書類にサイン…もらおうと」

「そうか」

奥へと足を進めながら頷いて、こちらの視線がソファーに向けられたのに気付くと、真面目な顔が苦笑の形に緩む。
どうやら彼は、茶髪の少年軍人がここで眠っていたことを知っていたようだった。

「寝かせておいてやれ。最近徹夜続きだった上に、調べ物のために走り回っていたらしいからな」

「ふーん…?」

少し休んでいけ、と言い出したのは彼だったらしい。
それに素直に応じた少年にも驚きだったが、それだけ疲れていたということだろうか。
そういえば確かに、最近リオンはよく外出していた(図書館にでも行っていたのだろう)。

「雨が降っている間だけ休む、などと言っていたが…」

……素直に応じた、というわけではなかったらしい。
空色の少女しかり、変なところで意地っ張りだ。

「…ま、雨も暫く止みそうにないし、仕事も一段落したし」

「ああ。起こす理由はまだ無さそうだな」

書類を受け取った上司と目を合わせて、同時に苦笑した。





こんな天気も悪くないね
(珍しいものも見れたことだし、な)




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