任されていた視察を終え、一刻も早くくたくたの体を休めたい、と向かっていたのは司令官室。
事は、その廊下で起こった。

「…あれ?ちょっとちょっと、そこの人」

軍関係者の中でも一部の限られた者しか入れない(というか用が無い)フロアに、見慣れない人物がいたのだ。
空色の短めの髪に、小柄で線の細い体。
街のほうでも見かけた覚えが無いが、一体なんでこんなところに。
声をかけられたことに気付いて振り返ったその人は、不思議そうにこちらを見ている。

「駄目だよ、ここは一般人立ち入り禁止」





犬もくわない





「はぁ?」

「だから、関係者以外は入っちゃいけないんだって」

いや、その関係者なんだけど、と眉を寄せて返された。
そうは言っても、とても軍人には見えないし(そもそも軍服も着てないし)、あたしの記憶の中にその人物の姿は無い。
じゃあ何者だ、と考えて、思い至った。

「…ああ、もしかして誰かの娘さん?お父さんあたりに忘れ物届けに来たとか」

「むす…」

思い付いたことを口にすれば、その人は顔を歪めて固まった。
あれ、なんか地雷踏んだ?
……あ、よく見たら男の子だったっぽい。

「…そう言うお前こそ、なんでこんなところにいるんだよ。一般人は入っちゃいけないんだろ?」

「一般人じゃないし。こう見えて軍人ですから」

「は?つくならもっと上手い嘘つけよ」

「嘘じゃないんだけどねぇ」

「お前みたいなチビが軍人なわけないだろ」

「アンタだって人のこと言えないでしょ、チビ」

「てめ…」

「何さ」

そこで一時、沈黙。
双方相手を睨み付けて、同時に大きく息を吸う。
互いの口から罵声に近いものが飛び出そうとした瞬間、

「何やってんだ馬鹿ども」

「「ごふっっ!?」」

脳天チョップを食らって床に沈んだ。
ぐは…舌噛んだ…

「……ッリオン!!」
「何すんだよ!?」

痛みをやり過ごして顔を上げると、そこには茶髪の少年軍人。
リオンが、両手に愛銃を握って呆れ顔で立っていた。
……って、素手じゃなくて拳銃で殴ったな!?

「喧嘩するなら他所でやれ。通行の邪魔だ」

「「だってコイツが…!」」

「はいはい」

「聞けよ!」
「大体、コイツ何者なのさ」

「あーそうか。姫、視察巡りで長いこと空けてたんだよな」

こいつ、シアングレス・シルヴィア。
お前が留守にしてる間に国家資格を取った、樹氷の錬金術師な。
んでシアン、こいつは氷の錬金術師、クライサ・リミスク。

さらりと紹介してくれた彼の言葉に、あたしたちはぽかんと口を開けたまま固まっていた。
え、うそ、国家錬金術師?

「ちなみに姫、シアンは16だから」

「うそ年上!?これで!?」
「……」





初対面での大ゲンカ
(これが、あたしたちの出逢いだった)





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