一階にいた者は既にクライサが片付けていたらしく、建物の外で待機していた軍人たちが気絶した男たちを運び出している。
「おい」
捕らわれていた少女たちも無事保護され、彼女らが落ち着いた頃に順々に家へと帰してやる予定らしい。
「……おい」
「……ッ」
忙しなく動き回る軍人たちを離れた位置で眺めながら、腕を組んだ少女(本来は少年)が隣でしゃがみ込んでいる少女に不機嫌そうな声をかけた。
それでもなお彼女に顔を上げる気配はなく、ただ腹を抱えて笑っている(もう声はほとんど出ていないが)。
「いい加減笑い止め、チクショウ」
「だってさ……だって、女装したまま…ッは!」
「……息も絶え絶えに言われると、すんげームカつくんだけど」
拉致事件が多発し、人身売買グループが横行していることに頭を悩ませていたロイが、クライサに捜査を依頼したのだそうだ。
苦手とする地道な捜査でアジトを割り出し、男に変装し潜入しようとしたのだが。
『ここは子どもの来るところじゃないって門前払い。ムカついたんでその場で叩きのめすことに決定しちゃいました☆』
(クライサらしい…)
それでシアンと会って、互いに敵だと勘違いして戦うことになったというわけだ。
「で、いつまでその格好でいるの?シアン」
「ここでヅラとったらオレだってバレるだろ…」
「え、いいじゃんバレたって。おーいみんなーここに樹氷の錬金術師が、」
「本気でやめろ!!」
そんなわけで、事件は無事解決。
気は引けるがロイに事情を話せば、職場を離れたことは咎められずに済むだろう。
司令部に帰って着替えたら、まずハボックたちに制裁をくわえてやらねば(大体、女物の服なんてどこで手に入れたんだ?)
「リオンにも復讐してやらなきゃな…」
「やめといたほうがいいと思うけど」
「なんで?」
「リオンがキレたら、あたしより怖いから」
「……」
トラウマに深く突き刺さる一言でした。
END.
【H20/08/13】