「ってワケで、シアンが身代わりな」
「はぁ!?なんでオレが!!」
「リオンを見逃したのはお前なんだから、お前が責任を取るべきだろ」
なんて勝手な理屈。
元々捕まえられなかったのはお前らじゃないか、という反論を、聞く耳持たずな彼らはさらりと流す。
「ちなみにリオンの罰ゲーム、女装して街中を歩くことだから」
「はあぁあ!?」
そうか、それで『悪いな』か。
謝るぐらいなら逃げるなこんチクショウ!!
そんなワケで。
(何してんだろ、オレ…)
腰回りのスッキリした、淡いオレンジのワンピース。
下には七分丈のジーンズ。
いつぞやの捜査で使用したカツラを被り、セミロングの茶髪を緩く内巻きにして。
少女ーーの格好をした(させられた)少年は、俯きがちにイーストシティのメインストリートを歩いていた。
先程から物凄く視線を集めているような気がするのだが、既にバレていたりするのだろうか。
そう思うと市民たちと目を合わせることなど出来ず、更に下を向く少年は知らない、彼らがシアンを見ているのは単に女装姿が(国中探してもなかなか見つからないレベルの)美少女にしか見えなかったからだということを。
(メインストリートを往復し終えるまでの辛抱だ…)
司令部を出る時の、ハボックたちの見送る顔ときたら。
その明らかに腹を抱えて笑うのを堪えている顔に、後で覚えていろと心の中で呟いたのはつい先程のこと。
不幸中の幸いは、彼が女装するとなれば喜んでその手伝いをしようとする、空色の少女が旅で不在なことだろうか。
彼女がいないだけまだマシだと、羞恥に耐えながらシアンは歩く。
そう、歩くだけでいいのだ。
何か特別なことをする必要はない。
罰ゲームを果たすことに必死なシアンは、気付かない。
誰かが見張っているわけではないのだから、律儀に命令に従わず司令部に戻ってしまえばいいのだということに(しかもシアンは彼らの上官にあたるのに)。