「くっ……撃て!撃ち殺しちまえ!!」
サングラスの男の言葉により、全員がシアンに銃を向ける。
発射される弾丸。
建物内に響く銃声。
両手に持った剣を地面に突き刺し、素早く掌を打ち鳴らせその横につく。
男たちとシアンの間に錬成された壁が、降り注ぐ銃弾から彼の身を守った。
再び刃を持ち、駆け出そうとした少年の耳に
「…ん……」
少女の小さな声が届く。
「クライサ!」
鳴り響き続ける銃声により目を覚ましたクライサが、上半身を起こしながらぼんやりとこちらを眺めていた。
安堵に顔を弛めるシアンだったが。
「……誰」
「え?」
「誰、あたしの安眠を邪魔した野郎は」
一気に険しくなる表情。
鋭くなる目。
後ろ手に合わせた掌により、手錠が音を立てて崩れ落ちる。
ゆっくりと少女が立ち上がる。
その様を、シアンと男たちは見ていることしか出来なかった。
「あたしね、寝起き悪いってよく言われるの」
ゆっくりとした動きで両手を合わせる。
普段なら可愛らしく映る笑顔が、今は恐ろしくてたまらない。
剣を両手に持ったまま、シアンは数歩後退った。
「な、なんだこのガキ!何者…」
「あたし?あたしはね、クライサ・リミスク。氷の錬金術師だよ」
建物内に吹き荒れるブリザード。
その中で暴れ回る少女を止められる筈もなく。
『キレたら手がつけられない』と言われる自分よりも遥かにタチの悪い暴れ馬を、シアンは見守っていることしか出来ないのだった。
(今後クライサはむやみに起こさないようにしよう…)
暴れ馬の暴走がおさまる頃に到着したロイたちに、死なれる前に保護した犯人たちを任せると、漸くシアンとクライサの任務は終了を迎えた。
建物内は冷気に包まれており、氷の扱いに慣れている自分ですらも寒くなってしまいそうな程、至るところが凍りついている。
我を忘れた暴れ馬が、無茶苦茶に氷錬成を行った結果だろう。
「もうあんな仕事よこすなよな!?オレもう嫌だからな!!」
その後の司令部では、ロイにやつあたるシアンの姿。
余程嫌な思い出となってしまったのだろう、その表情は必死なものだ。