ふと視線を横に向ける。
床に座り込んでいる自身の隣に目を向けて、思わずその目を見開いた。
「……クライサ」
ドレスを纏ったまま、シアン同様両手を後ろ手に捕らえられ、床に倒れている少女。
トレードマークとも言える空色の髪は、今はカツラの下。
同色の眼は瞼の奥に潜んでおり、一見別人のように見える。
「おい、クライサ」
呼びかけても返事は無い。
だが、シアンとしては心配する気もなかった。
気持ち良さそうに寝息を立てて、爆睡してるものだから。
(呑気に寝こけやがって…)
一応それなりに危険な状況だというのに。
身の危険を感じることもなく眠り続ける少女が、少しだけ羨ましくなった。
カツン
(ーー!!)
静かな倉庫内に響いた、足音。
音の主は、聞かなくたって分かる。
今回の捜査の発端となった、嫌がらせ集団だろう。
「お目覚めかい?」
屋内に姿を見せた男たちは十人。
拷問(擽りの刑)により吐かせた男の言っていた通りの人数だった。
正直、両手が自由でないこの状況では、一人で戦うには不利過ぎる。
「ニセモノ掴まされるたぁ…俺たちもナメられたもんだな」
偽者だと分かっているのなら何故連れて来たのかと、尋ねるまでもなくご丁寧に説明してくれた。
最初にクライサたちを襲った男たちが失敗することは目に見えていた。
その二人を倒したことで油断が生まれるところを狙って待機させていたのが、クライサを捕らえたあの大男。
シアンの背後をとった小柄な男は、そのサポート役としてついて来たらしい。
そして
「その二人が、オレたちを本物の娘たちだと思って連れてきた…と」
「そういうこった」
大きな溜め息をついたサングラスの男(どうやら彼らのリーダーらしい)。
部下に苦労してるんだな、と何となく同情してしまった。
「…まあ、予定通りにはいかなかったが」
徐に彼の腕が伸びてくる。
シアンのドレスの胸ぐらを掴み、軽く引き上げると、少年が眉を寄せた。
「俺たちを騙そうとしたんだ。ただじゃ帰さねぇ」
ドスのきいた声でそう告げられても、シアンは怯えた様子を見せない。
それに気を悪くしたのか、サングラスの向こうで男の目が細められた。