目の前まで迫られて、改めて思った。
シアンは元々小柄なので基準にはならないかもしれないが、彼より遥かに大きな男。
身長は二メートルを優に超しているように見える。
腕も丸太のように太く、腕力では敵いそうにない。
(クライサを助けてコイツを倒せる、上手い方法を考えないと…)
腕力で敵わなくても、錬金術とのコンビネーションで何とかなる時がある。
どうにかしてこの状況を打開せねば、と思考を巡らすシアンの背後から
「大人しくしてろよ、おじょーちゃん」
声が聞こえた。
「な……っ!!」
振り返ったシアンの目には、目の前にいる大男とは別の、小柄な男の姿が映る。
いつの間に、と焦る自分の中で、大男の後ろに隠れて入ってきたのだろう、と冷静に分析している自分がいる。
背後の男の姿を確認した瞬間、視界の外で大男が動いた。
振り下ろされる手刀。
彼の後頭部を狙ったそれを、少年は避けられない。
「ちく、しょ…」
沈んでいく意識に逆らうよう、両手を強く握り締める。
だが少年の意思に従わず、彼の視界は完全にブラックアウトした。
「………う…」
目を開けると、同時に後頭部がズキズキと痛み出す。
それに耐えるよう目を伏せ深く息を吐いてから、もう一度瞼を持ち上げた。
数度瞬きして目を慣らしても、視界は暗かった。
夜になったというわけではなく、どこか薄暗い倉庫に連れて来られたのだと悟る。
視界に映るのはドラム缶や木箱、コンテナ類。
遠くから見て分かるほど、それらには埃が積もりに積もっている。
どうやら、此処が倉庫として機能していたのは、何年も前のことのようだ。
(ヘマした…)
自分の姿を確認してみると、深い深い溜め息が出た。
ドレスは多少汚れているものの、未だに身体にまとわりついており、倒れていたにも関わらずカツラはズレてもいない。
倒れる直前と同じ感触で頭部に乗っているから、触らなくたって分かる。
…というか、触れないのだが。
(手錠なんて何処で手に入れたんだよ…)
両手首を後ろ手に捕らえている手錠。
外せないものかと指先を動かすシアンの耳に、鎖の立てる無機質な音だけが届く。