嫌がる男をひたすら擽った後、笑みを浮かべたままクライサが立ち上がった。
息も絶え絶えな男を哀れに思いつつ、平然とした様子で自身の考えをまとめようとしている少女に僅かながら恐れを抱く。
幼い外見とは裏腹に、彼女は心に鬼を飼っている。

(女って怖い…)

改めて、味方で良かったと思った。

「侵入してきたのは二人だけ。他に仲間は十人いるが、皆アジトで待機してる…か」

少女の呟く声が聞こえると、シアンも頭を切り替える。
ある意味えげつない方法で聞き出した情報を、ホールで待機しているロイたちに伝えねばならない。

「娘たちを捕らえるのに失敗したと知ったら、また別の奴らが来るかもしれない。それより早く大佐たちに報告しなきゃ」

「そうだな」

簡単に身なりを整えてから、クライサが廊下に続く扉へと足を進める。
同じようにドレスの裾をはたいていたシアンが顔を上げるのと同時に、少女が扉を開いた。

「シアン、行くよ」

「ああ、分かってーー」

シアンのほうを見ながらドアを開けた少女。
その向こう側、開いた扉の先に、パーティーに似つかわしくない格好の男の姿が目に入った。
言葉を途切れさせたシアンに首を傾げたまま、クライサは前を見ようとはしない。
少年の視線の先で、男が動いた。

「クライサ!!」

部屋の中を向いたままだった彼女を抱き込むようにして捕らえ、手にした布で少女の口を覆う。
何かの薬品が染み込ませてあったのだろうか、クライサは声を上げることも抵抗することも出来ずに頭を垂らした。
意識を飛ばしてしまったようだ。

「てめ…っクライサを離しやがれ!!」

「それは出来ねぇさ。…ほら、このガキに死なれたくないなら、お前も言うことを聞きな」

意識を失い、軽々と男に担がれてしまった少女へと目を向ける。
彼女の命がかかっている以上、ここで下手に抵抗するわけにはいかない。
悔しいが、ここは素直に従ったほうがよさそうだ。

「そうそう。イイコにしてれば危害は加えねぇよ」

「…娘二人を殺すつもりで来てるくせに、よく言うよ」

身動きはとらずに、目だけで敵意を伝えるように相手を睨みつける。
少女を担いだまま男は室内に足を踏み入れ、シアンの目の前まで歩みを進めた。





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