「準備がいいなら俺はもう戻る。…ヘマすんなよ?」
「「了解」」
二人同時に右手を挙げ、男に向け敬礼する。
彼もまた同じように挨拶を返し、部屋を後にした。
護衛がそこを離れたことで、部屋への侵入は楽になる。
室内に入ればすぐに娘たちを殺すなり、捕らえるなりすればいい。
悲鳴を上げられては面倒だから、なるべく素早く。
若い娘二人を力でねじ伏せることぐらい、難しくはないだろう。
「それが『ただの』娘だったらね」
男は白眼をむいて倒れた。
豪勢な部屋に似つかわしくない、何とも質素な服装。
右手には拳銃、肩から掛けられた機関銃。
物騒な物を纏った男は、少女の足の下で気を失ったまま、目を覚ます気配はない。
「シアン、そっちはどう?」
「バッチリ」
同じような服装で、同じように武装した中年の男が、襲いかかろうとした少女ーー正確には少年にねじ伏せられていた。
うつ伏せに倒れた彼の上に跨り、捻った片腕を背の上で捕らえる。
体を伏せたまま首だけを捻り、悔しそうに男はシアンを睨んだ。
「さて、アンタたちは全員で何人いるのかな?」
倒れた男のほうへ、ゆっくりと歩みを進める。
顔に笑みを貼り付けたまま、クライサは口を開いた。
男は顔を背け、少女の問いには答えない。
「…ほーう…あくまで黙秘権を主張するわけだね」
少女は笑みを深くする。
と同時に、目を鋭いものに変えた。
「口を割るのが嫌ならいいよ。無理矢理言わせるから」
床に膝をつき、男へと手を伸ばす。
表情は無い。
「クライサ…?」
少女の名を呼ぶ声が聞こえると、彼女は満面の笑みを浮かべ顔を上げた。
「心配しないで、シアン。ちょっと拷問にかけるだけだから」
「ご…っ拷問!?」
まさか彼女の口からそんな言葉が飛び出すとは。
可愛らしい笑顔と裏腹に、どんなことを考えているのだろう。
「しっかり押さえててねー」
「…ちなみに、拷問ってどんなことを…」
「ん?ひたすら擽るの」
「そりゃ確かに拷問だ」