そんな流れでパーティー当日になったわけだが。
(い…)
「今からでも遅くない、逃げよう…なんて思っても無駄だよ」
「読まれた!!」
パーティー会場となったのは、60歳を迎える主人の構える豪邸。
要するに、『とある財閥』の屋敷である。
大ホールに招待客が集まっていく中、娘達の身代わりを務めるクライサとシアンは、ホールから数メートル離れた控室にいた。
部屋の前には、ハボックが護衛として立っている。
「ここまで来たんだから腹くくりなよ。いつまでも嫌がってたら逆に見苦しいよ」
呆れたような口調で、嫌そうに顔を歪めているシアンに目を向ける。
彼の不機嫌の理由はよく分かる。
その格好を見れば。
「女のお前には分かんねぇよ…こっちは男なんだぞ?それなのに、こんな…」
「女装がそんなに嫌?」
「嫌に決まってるだろが!!」
普段軍服に包まれている小柄な身体は、今は桃色のドレスを纏っている。
フリルがふんだんに使われており、大富豪の娘らしい豪華なデザインだ。
短かった筈の髪は、カツラによって肩につくぐらいの長さになっていて、色も普段の水色ではなく、ここの娘と同じ茶色。
同様にクライサも身代わりらしく、大人しくドレスに包まれている。
こちらはシアンのものとは色違いである橙色だ。
髪も同じように茶色に変わっており、普段の空色が見慣れているせいか新鮮である。
「可愛いんだから自信持ちなよ」
「すっげー複雑なんですけど」
そう、複雑。
自分は正真正銘男であるのだから、女装が似合うと言われたって嬉しくはない。
まあ、気持ち悪いなどと言われるよりはマシだが。
……マシかなぁ。
コンコン
そんな複雑な気持ちに唸り声を上げていた時に聞こえたノック音。
クライサが返事をすると、叩かれた扉が開く。
そこから顔を出したのは、護衛を務めていた男。
ハボックである。
「二人とも、心の準備は出来てるか?」
「完璧だよ」
「一応…」
先程までの子どもらしいそれから、一瞬で軍人の顔に変わった二人。
その切り替えの速さに、ハボックは口元に笑みを浮かべる。