「パーティー当日、我々は警備につく。君たちは…」
「娘二人の身代わりでしょ?言われなくたって分かってるよ」
またお嬢様のフリをしなくてはならないのか。
以前にもこの手の仕事を命じられたことのあるクライサは、嫌そうに顔を歪める。
ふと視線を向けた先では
「……シアン?」
シアンが、固まっていた。
「……身代わりって?」
「他の人にかわってその役をすること。もしくは、その人」
「いや、『身代わり』の意味を聞いてるんじゃなくてな」
シアンの言いたいことは分かる。
財閥の主人の娘の、身代わり。
つまり
「…オレに、女装しろってのか…?」
「当たり前だろう」
「当然でしょ」
「即答かよこの馬鹿兄妹」
成程、だからクライサはあんなに上機嫌だったのか。
嫌がらせや悪戯が大好きな彼女が、シアンを女装させることに楽しみを感じない筈がない。
「…ってことはお前…知ってたのか!?」
「違うよ。シアンを女装させて囮捜査をするってことしか聞いてなかったの」
違わない。
全く違わない。
今回の任務内容を、今シアンと共に聞くまでもなく、知っていたのではないか。
「だから違うって。パーティーのことは知らなかったし、何よりあたしまで身代わりになるなんて聞いてなかった」
……そういう意味か。
だからあんなに楽しそうだったのか。
(自分も同じ目に遭うと知ってたら逃げるもんな、コイツ…)
嫌な役を押し付けられたくないから、といって彼女に逃げられた経験が何度もあるからこその知恵だろう。
いつもながら、ロイの悪知恵には恐れ入る。
「だからさ」
しまった。
余計なことを考えていたせいで、逃げるタイミングを逃した。
耳に届いた少女の声、肩に置かれた手に、見上げれば
「一緒にがんばろーね。身代わり」
極上の笑顔を浮かべたクライサが、しっかりとシアンの腕を掴んでいた。
(さっさと逃げときゃ良かった…)