「囮捜査ぁ?」

シアンを呼び出した張本人、ロイの執務室に行けば、その主の他に部下であるホークアイの姿が目に入る。
渡されたファイルを手に応接用のソファーに腰を下ろすと、その向かいにはクライサが腰掛けた。

「ああ。君にはクライサと組んで捜査にあたってもらう」

ファイルには、とある財閥の主人のプロフィールらしきものが挟んである。
財界に興味のないクライサやシアンですら、一度は聞いたことのあるような有名財閥である。
それを捲ると、二枚続けて少女の写真が貼ってあるプロフィール。
一枚目に貼ってあった写真の男の娘二人のようだ。

「先日、その主人の元に脅迫状が送られてきた」

それがこれだ、と差し出された手紙。
受け取り封筒の中を覗くと、一枚の紙が入っていた。

「『来週行われる生誕パーティーを中止しなければ、娘二人を殺す』……なんだこりゃ」

「脅迫状だよ、脅迫状。…で?生誕パーティーってのでは何が行われるの?」

イベントを中止しろ、という要求の場合、大抵はその中で何かしらの出し物がある。
例えばオークションだったり(売りに出されては困るものがあって中止を求める)、新商品のお披露目だったり(この場合、ライバル会社の妨害であることが多い)。
この生誕パーティーでも、目玉となるイベントがあるのだろうか。

「いや、そのパーティーは単なる誕生日会だ」

主人の60歳を記念するパーティー。
出席者も、ほとんどが主人の親しい友人で、商売を目的として出席する者はいないと思われる。

「じゃあ何?中止させて何のメリットがあるんだ?」

「まさか…単なる嫌がらせ?」

クライサの言葉に、ロイは黙って頷く。
それを見た途端、彼女はシアンと共に深い溜め息をついた。

(嫌がらせごときに娘の命を持ち出すなよ…)

くだらない。
くだらな過ぎて溜め息しか出ない。

「嫌がらせのためだけとは言え、娘の命がかかっているんだからな。軽視は出来ない」

当然パーティーを中止させる気は無いらしい。
まあ、何か別の目的があるわけでなく嫌がらせ自体が目的なのだから、そのために中止にするだなんて馬鹿馬鹿しいことこの上ないが。






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