ある目的のために国家錬金術師になった、彼。
それなりの覚悟はあったし、自信もあった。


その彼が

国家資格を取得したことを
こんなにも後悔する原因になったのは

後にも先にも
この事件以外には無いのだろう。





氷上のカノン





東方司令部廊下。
通り過ぎる下官たちに簡単に挨拶を返しながら、彼は目的地に向け歩みを進めていた。

彼の名はシアングレス・シルヴィア。
適度な長さに切られた空色の短髪、灰色の眼を携えた少年である。

16歳という若さで国家錬金術師の資格を得た彼は、アメストリス国の東方統括軍支部である東方司令部に勤めている。
今向かっているのが、その司令官であり彼の上司であるロイ・マスタング大佐の執務室なのだ。

(ったく、せっかくの休みだってのに呼び出しなんかしやがって…)

珍しく取れた休暇だというのに、我等が上司はそのようなことはお構いなし。
朝っぱらから彼の自室に来るようにと呼び出されたわけだ。
休日返上。
また後日、振り替え的な休みをもらうとしよう。

「シーアーンーッ」

「うおっ!?」

そう簡単に休暇を取らせてくれない上司をどう脅そうか考えていると、背後から自身の名を呼ぶ声が聞こえた。
同時に、何かが背中にぶつかってくる。
首に両腕が回ったことにより、誰かが抱きついてきたのだと悟った。

「クライサ!」

「シアン久しぶり!待ってたんだよー」

首だけを後ろに向け、その正体を確認する。
飛びついてきた少女が彼と目を合わせて笑った。

少女の名はクライサ・リミスク。
彼と同じ国家錬金術師で、彼と同じ空色の、長い髪を持つ少女。
だが彼と違って彼女は、同じ国家錬金術師のエドワードたち兄弟と共に旅に出ていた。
その彼女が、何故今ここにいるのだろうか。

「詳しいことは後で説明するよ。今はほら、大佐のとこに行くよ!」

「あ、ああ…」

元々の目的地は執務室なのだ。
今さら異存があるわけではないが、急かす彼女に疑問が残る。

何故

なんでそんなに楽しそうなんだ?






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