笑顔で相手を威圧するレオン、目をそらし始めた大佐の後ろに立っていたあたしの視界に、一つの影が入った。
不自然な動きを見せたそれが、突然こちらに向かって走ってくる。
その影が先程の研究員の一人である事に気付くのに、そう時間はかからなかった。
彼の手に見えた、拳銃。
その銃口が向くのは、レオンの背中。
発砲と同時に、体が動いていた。
「…クライサ、」
銃声が響いて、振り返ったレオンの目が見開かれた。
大佐はいつも通りの、笑顔。
発砲した研究員の両手が震えている。
「往生際悪いねー」
レオンを狙った銃弾を落としたのは、あたしの足だ。
剣をも受け止める鋼の仕込まれたブーツは、銃弾にも負けはしない(ちなみに重さは一般的なブーツの数倍。足腰鍛えられます)。
男があたしの部下によって拘束されるのを確認してから、レオンの方に振り返った。
(………あ)
驚きながらも笑顔で迎えてくれたレオンの背後に、ニヤリと嫌な笑みを浮かべる大佐を見つけて、あたしは固まった。
「氷の。私は君に『手を出すな』と言わなかったか?」
「だ…」
「出したのは足だ、などという屁理屈は聞かんからな」
「逃げ道潰された!!」
しまった!
状況が状況だったとはいえ、無意識に手を出してしまうとは。
あたしの目の前にいるのは、あのマスタング大佐だ。
査定はもう終わったじゃないか、と言えば、家に帰るまでが査定だ、なんて返してくるような人だ(子供の遠足かっつーの)。
『君が手を出した瞬間、失格だ』という言葉通りの判定になってしまう。
「氷の」
「……失格ですか…?」
レオンの顔を見られない。
あたしのせいで、今回の査定は無かった事にされてしまうんだ。
申し訳なくて、彼に視線を向ける事も出来ない。
「ああ、失格だ」