軽いステップで後方に下がり、振り下ろされた刃を避ける。
次いで右手の研究員が突き出したナイフを、膝で蹴り上げ奪い取る。
息つく間なく、背後から襲いかかってきた男の手元で光る刃を、取り上げたナイフで受け止め、その腹部に蹴りを入れた。

「ふーむ」

どこでこんな技術を身につけたんだろう。
軽々と研究員達の攻撃を防ぎ、反撃する彼は明らかに戦い慣れている。
あたしに照準を合わせた男の拳銃を、錬金術で伸ばした蔓で絡め取る余裕があるほどだ。
手を貸す必要性すらない。
この様子なら、あたし以外の誰が監査官でも評価は最高ランクだろう。

舞うようなステップで戦っていたレオンが、動きを止めた。
彼の周囲、足元には、武器を落とし地面とご挨拶中の男五人。
その中心で両手を叩き払っている彼に、拍手を贈りたい気持ちになった。








「あれ、なんで大佐がここにいるの?」

思っていた以上に早く済んでしまったため、短時間で帰還してきたあたしとレオンに部下達は驚きを隠せない様子だ。
けれど労をねぎらうように声をかけ、迎えてくれる……うん、いい部下を持った。

(じゃ、なくて)

あたしの隊に紛れて笑みを浮かべている我らが上司に、尋ねずにはいられなかった。

「ああ、ホークアイ中尉には許可をとっているよ」

「…って事は、レオンの様子を見にきたってとこか」

そうだ、と頷いた大佐。
呆れ顔のレオンに、溜め息をつくしかないあたし。
東方司令部、決して暇なわけではない筈なんだけど。

建物内の合成獣及び先程の研究員達を捕獲・回収するべく、部下達を研究所へ向かわせて。
その様子を見守るあたしとレオンに、バカ兄……もとい大佐が言った。

「正直、君がこれほどまでの力を持っているとは思わなかった。期待以上で嬉しいよ、レオン」

「お褒めに与り光栄です、マスタング大佐殿」

………。
レオンの言葉に、何やら棘のようなものを感じるのは、多分気のせいじゃない。
笑顔だけど、全く『光栄だ』って顔してないし。

(…なるほど、これが噂の)

エドから聞いていた。
レオンはキレると、敬語口調になって笑顔で毒を吐くのだそうだ。
今はキレてしまっている様子はほとんど無いが、彼の背後に心なしか黒いオーラが見える。

「…やれやれ、随分嫌われてしまったみたいだな」

「自業自得でしょ」

そう、昨日、レオンを怒らせる言動を続けた大佐が悪いのだ、元はといえば。
彼が中性的な顔立ちで美人さんだからって、しつこく揶揄するものだから。
温厚なレオンもさすがにブチ切れて、執務室をブリザードが襲った事は記憶に新しい(なんて言ったって、昨日の話だから)。





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