「……という訳で。今日はよろしくお願いします」

「うん、こちらこそ」

評価用のファイルを腕に抱えたまま、ペコリと頭を下げる。
と、目の前に立つ青年──レオンも同じ行動をして、顔を上げてから微笑んだ(ああ、これが殺人スマイルってやつか)。

大佐から説明を受けてすぐ、あたしとレオン、そしてあたしの隊は目的の研究所に向かった。
今、研究所の敷地内にいるのはレオンとあたしだけ。
部下達は門の向こう、敷地の外で待機している。
もしもの時(レオンが失敗するとは思っていないけど、念のため)、街が襲われる前に合成獣を討伐するためだ。

これから建物内に入るのはあたし達だけ、中で合成獣達と対峙するのはレオンだけ。
手出しが許されないあたしは、彼を援護する事はもちろん、自分自身が襲われた際も反撃する事は出来ない。
大佐が監査官をあたしに任せた、もう一つの理由がこれだ(あと一つは、多分、レオンの友人だからってだけの理由)。
反撃が許されないというのはつまり、危機が迫っても、ただ避ける事しかかなわないという事である。
更に、その間も監査対象であるレオンから目を離せない。
並の軍人では全う出来ない役目だ。

長い黒髪を一括りにして、真剣な顔つきでレオンは足を進めていく。
あたしは黙ってその後に続きながらも、まだ見ぬ彼の実力にワクワクしていた。



「クライサ」

「何?」

…ワクワクしてるんだけど、

「そんなに、不安?」

「…………え」

振り返ったレオンの、苦笑い。
彼の問いに、目にしたそれに、あたしは足を止めてしまった。

「どう、して」

「だって、さっきから」

凄く緊張してる。
彼の指差す先に目をやって、驚いた。
ファイルを抱えた腕の、指先が(あたし自身、気付かないぐらい、)小刻みに震えている。

「そんなに心配しないで。もし合成獣退治が失敗しそうになっても、君だけはちゃんと逃がすから」





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