「あーつーいー…」
「夏だからね」
August(八月)
晴れ渡った空。
照りつける太陽。
蝉が己の存在を主張する声が町中に響く。
子供達が声を上げて遊び回り、長い夏休みに親達は苦笑する。
そんな中。
「暑い…」
「クライサ、うちのエアコンを壊す気?」
先程から冷房のリモコンを手放さずに、床に転がる少女が一人。
もう一人の少女は、それに呆れた顔も見せず雑誌に目を落としている。
設定温度をどんどん下げていく彼女だったが、同じボタンを何度も押しているうちに機械が言う事を聞かなくなってきた(いや、単に下げられる温度の限界に達してしまっただけなのだが)。
「あついーっ」
「そう言うと、余計に暑くなるよ」
「言わなきゃやってらんないの!!」
放り投げたリモコンが、ソファーの上で跳ねた。
ぽすん、と軽い音が耳に届く。
転がっていた少女は体を起こし、今度は扇風機に狙いを定める。
スイッチを押すと、回り始める羽。
心地よい風を起こし始めてから、回転するそれに向かって、あー、と意味を成さない声を放ってみた。
「そんなに暑いのが嫌なら、錬金術で温度下げればいいんじゃない?」
「錬金術使う気力も無いんだな、コレが」
首を振る扇風機に合わせて体を動かす。
その様子を見ている少女は、そうやって動くから暑く感じるんじゃないのか、なんて思ってみる。
(まったく…)
「家の中でコレだもんね。外に遊びに行くなんて無理か」
彼女が、暑い日をこんなに苦手としているとは思わなかった。
夏休みはひたすら一緒に遊び回ろうと予定していたのに。
トワは、この夏何度目かの溜め息をつく。
「だからゴメンってば!あたしだって遊びに行きたいんだよ?だけど…」
扇風機のスイッチを切り、余韻で舞う髪を手で押さえながら、彼女の溜め息の原因である少女は口を開いた。
その表情はどこか申し訳なさそうで、残念そうである。
「わかってる。体調崩しちゃ、遊びどころじゃないもんね」
「…うん…ゴメン」
クライサは夏の暑さに弱い。
それが生まれつきなのか、育った環境のせいなのかはわからないが、すぐに体調に表れてしまう程苦手なのだ。