「クライサ?早く来いよ」
「あ、うん」
先を行くエドワードに声をかけられ、一度そちらへと目を向ける。
ウィンリィが、彼女が目を奪われていた少女を見ていたのが確認出来た。
「先行くぞー?」
「待って待って!今行く!」
このまま足を止めていては置いていかれ兼ねない。
名残惜しいが、その場を離れるしかないようだ。
再度目を向けた、美女桜の君。
彼女はまだ、麗しい微笑みでこちらを見つめていて。
クライサは返すように笑顔を見せると、軽く手を振ってから駆け出した。
「クライサ、さっきの子と知り合いなの?」
「ううん、たまたま目が合っただけだよ」
教室に着き自席に荷物を下ろすと、エドワードとウィンリィが椅子に座るクライサの前に立つ。
外部生よりも内部生の比率が高いのか、室内には見知った顔が何人もいた。
「そうよねぇ…」
意味深なウィンリィの呟きに、少女とエドワードは首を傾げる。
「ウィンリィの知ってる子なの?」
「知ってるっていうか…」
聞けば、美女桜の彼女は中学時代から有名な存在だったのだという。
珍しい髪色、麗しい容姿のために注目を集め、何かと話題になっていたそうだ。
外部生ではあるが、この学園にもその噂は流れてきていたらしい。
「特に何かをやらかしたっていう噂じゃなかったんだけどね。他校に美人がいるとかっていう、ありがちな噂」
「ふーん…聞いた事なかったけどなぁ」
「そりゃあんたはね。噂話とか興味ないでしょ?」
「まーね」
そうか、外部生だったのか。
見覚えが無かったのも頷ける。
あれだけ珍しい色彩の、目立つ少女なら、一度でも目にしていればそう忘れる事も無いだろう。
「確か…トワイライト・コスモスさんだったかな」
「トワイライト…」
(そう、それが一年前の出来事)
「おはよ、トワ!」
「おはよう、クライサ」
爽やかな朝。
迎えた登校時間。
教室へ向かう途中に見えた美女桜に背後から勢い良く抱きつくと、彼女はいつもの笑顔で挨拶を返してくれた。
一年前の入学式の日、初めて出会ったクライサとトワは、その後も何かと顔を合わせる機会が多かった。