予期せぬ再会編





「ほらよ」

「ありがと」

いちご牛乳の瓶をクライサに手渡すと、珈琲牛乳を持ってリオンはその隣に腰を下ろした。
入浴を終えて出てきた人々が一息をつく談話室。彼女ら二人の他に人はいない。
大人どもはまだ入浴中、エドワードはアルフォンスを連れて機械鎧の調整に行った(さすが軍の施設、入浴後に機械鎧が不具合を起こしていないか見てくれる技師がいるのだと)。
トワはスタッフに用があるとかで一人でスタッフルームに向かい、クライサはその帰りを待っているのだ。
リオンの場合は完全に気まぐれでここにいる。

「あれ、アサヌマ少尉にリミスク少佐じゃないですか」

それぞれ瓶を傾けつつ温泉の余韻に浸っていると、不意に名を呼ばれた。
誰だと思って声のしたほうに顔を向ければ、自分たちと同じ浴衣に羽織を着た、黒髪黒眼の少年が……

「ぶふぅっ!!」
「あ、ハウライト」

「こんばんは。少尉たちも来ていたんですね」

いつぞやの少年軍人だった。
また会いたいと思っていたリオンは向けられた笑みに手を振り返し、会いたかったようなそうでもないようなでも本当のとこはどうなんだろうなクライサは羽織の袖で口元を拭う。

「……架空くんって神出鬼没?なんでここにいんの」

「プライベートで遊びに来ていたんですよ。少佐たちを見かけて俺も驚きました」

「あれ、姫もハウライトと知り合いなのか?…って、架空って…」

「リオンのほうこそ、ハウライトって…」

クライサには『架空の錬金術師』と、リオンには『ハウライト』と名乗っていた彼は、戸惑う少女らの姿に笑みを浮かべた。何かを企んでいるような、何も含んでいないような笑み。それを見た少女らは、まあ別にいいかと疑問を投げ捨てた。

「しっかし架空くん、浴衣似合わないねー」

「そうか?十分似合ってると思うけど」

「恐縮です」

「や、外見的な意味じゃなくて…なんつーか、」

「…ああ、なんとなくわかる。何て言うかハウライトって、」

暫し思案して、同時に思い至った言葉を口にしようとした。
しかしそれは肌が感じた一瞬の空気の変化で叶わぬものとなってしまう。
微かに目を見張り、その正体を探ろうとした瞬間、背後で男が名を呼んだ。

「クライサ、リオン」

何してるんだ?
不思議そうに首を捻っていたのはリオだった。その後ろにロイたちの姿を見つけて肩から力を抜く。

はっとして視線を戻すと、漆黒の少年の姿はもう無かった。





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