出発編
厳しい冬を越え、春を迎えた東方司令部。
最近は大きな事件もほとんど起きていないため、勤める者たちにもそれなりに心に余裕が出来ていた。
街のため、そして国のために頑張ろう。
今日も書類と戦う司令官と部下たちの集まる部屋で、二人の少女が高く手を挙げた。
「宣誓ー。私、トワイライト・コスモスとー」
「あたし、クライサ・リミスクはー」
「「とりあえず慰安旅行に行きたいです」」
氷と仮想
〜東方司令部慰安旅行編〜
「そうですか」
「どうしようクライサ、たった五文字で流されたよ」
「あっはは、リオンてめぇコノヤロウ」
説明しよう。
大きな仕事は無いとはいえ、いつも通りそれなりの量積み上がった書類を片付けていた時、この二人の少女が司令室に乱入してきたのだ。
ノックも無しに扉を開け放って入ってきた彼女らの後ろには鋼の兄弟が控えている。
そんな少女らの発言に、ぽかんとしている大人数名。
呆れ顔の大佐は額に手を当てて溜め息をついている。
はい、説明終わり(byリオン)
「……どういうことだね」
「どういうも何も言葉の通りですが」
「このメンバーで慰安旅行に行こうよって言ってんの」
いや何言ってんの?
行こうよと言われてよし行こうなんて返せるわけがない。
このメンバーで行ったら誰が司令部を守るんだ。
数々の疑問や反論は、しかし誰の口からも発せられることは無かった。
彼女らならそんなことはわざわざ言わずともわかっているだろうから、などという理由では決してない。言ったところで聞く耳を持たないからだ。口にするだけ無駄、流されるが落ち。
「ま、言うだけならタダだしなー」
ハボックの苦笑ながらの一言は、空色の少女のけろりとした返答で覆された。
「ただの願望を、トワとあたしがわざわざ口にすると思う?」
「へ?」
「既に大総統の許可は取得済みです」
「大佐ー、この書類のチェックよろしくー」
「(リオン…)」
「(アサヌマ少尉…)」
「(うちのツッコミ番長が仕事放棄した…)」