「トワイライトちゃんが帰ってきてくれて、本当に良かったわ」
「本当だよ。あのままだと死んでたかもしれなかったもんな、姫」
「そんな大袈裟な」
「いやいや。トワはさっきまでの姫を見てないから。……で、お前はいつまでトワに抱きついてんだ?クライサ」
「充電中なの。ほっといて」
倒れたクライサを仮眠室へと運んだのは、リオだった(ちなみに倒れた原因は、過労とストレス、それから睡眠不足だ)。
その後すぐにトワがエルリック兄弟と共に帰還し、リオンによってクライサの眠るそこへと連れられてきた。
そして彼女が目覚めるまでの間、ロイとリオ、ホークアイ、ハボック、ブレダ、ファルマン、フュリー、エドワード、アルフォンス、それからリオンの計10名がクライサとトワを見守っていた、というわけだ。
つまり司令室は今、無人。訪ねてきた部下たちは驚いたことだろう。
「それにしても、時間かかったね」
「え?」
「でも無事で良かった。さすがトワ」
「あたしの言った通りでしょ?トワが戦争なんかで死ぬわけないんだよ」
「……え?」
「あーあ。あたしも一緒に行かせてくれたら、クレタの奴ら根絶やしにして早々に帰れたのに」
すっかり表情の明るくなったクライサに対し、ロイの顔色はどんどん悪くなっていく。同様に、リオやハボック、ブレダ、ファルマン、フュリーも顔を青くしていく。原因は、トワの向こう側に見える真っ黒な何か。
「……どういうことでしょう、マスタング大佐?」
普段より幾分トーンの低いトワの声に、クライサとリオンが首を傾げる。
彼女の纏う黒いモノと、ロイたちの変化の理由を察したらしい、ホークアイと兄弟が溜め息を吐いた。その表情は呆れのものだ。
「いや、その……だな」
「私は任務で中央郊外の研究所に潜入していた。その期間は四ヶ月。そうですよね?」
「……期間ぐらいは話しておくべきだったよ」
「そういう問題じゃないでしょう。エックスフィート大尉やハボック少尉たちまで揃って、なんですか、クライサたちを騙すような真似して」
彼女のその言葉に、漸くリオンが全てを理解した。体調不良により思考も普段より鈍っているのか、クライサは未だ首を傾げているが。
「クライサ、いい?あんたが教えられたのは、嘘の情報なの。私は西の戦地になんて行ってないの」
「……つまり、あたしは大佐に騙されたってこと?」
「そう」
「なーんだ、そっかぁ。………………へーえ」
スチャリとどこからか取り出され、クライサの手に握られたナイフを、ロイたちは見逃さなかった。青い顔のまま、死に物狂いな勢いで仮眠室を飛び出し、廊下を全力疾走。
「どうするんだよ、兄貴!!」
「このままじゃ俺ら、トワたちにブッ殺されますよ!?」
「知るか!!誰だ、クライサとトワの絆を試してやろう、なんて言い出した奴は!!」
廊下は走るな、なんて貼り紙は無視だ。そんなことより今優先すべきは、背後に迫る死期から逃れることのみ。
彼女らに捕まったら、死刑執行は免れない!(あるいは、死より恐ろしい罰が待っているかもしれない)