「……トワ、どうしたんだろ」
帰ってこない。
こんなに、待ち焦がれているのに。
「トワに……会いたいよ」
窓の外へ目を向けた。
隣には、ふらつく体を支えてくれる、リオンがいる。彼がどんな顔で自分を見ているか、容易に想像出来た。
(どうして、何の知らせも無いんだろう)
手紙の一つでも寄越してくれればいいのに……いや、それをする暇もないのか。多数の地区を移動しているのなら、それに関する知らせが入ってもいいのに。彼女の行動が、何一つわからない。
(何でもいい)
誰か、
(トワのことを、教えてよ)
ふと頭を過った漆黒。
何の根拠も無いけれど、彼なら、トワのことを何か知っているんじゃないかと思って。
気付いたら、声に出していた。
「……架空くん」
「クライサ?」
「黒い髪と眼の、若い…」
似ていた。
攻撃スタイルや表情が。
(トワに、)
(トワと、)
重なった。
向けられた笑顔が。
「……ハウライト」
クライサの言葉を耳にしたリオンが、呟いた。
それは数ヶ月前に行った、司令部を舞台にした攻防の日に出会った、漆黒の彼の名前。
少し言葉を交わしただけで、それ以来姿を見ない、彼の。
「リオ!」
「エックスフィート大尉!」
二人揃って、高身長の軍人に詰め寄った。あまりにいきなりだったので、彼の表情は驚きと疑問でいっぱいだ。だが、いちいちそれに構ってやる余裕はない。
「黒髪黒眼の軍人!」
「見てないか!?」
「え……今、目の前にいるじゃねぇか」
「こんな無能じゃなくて、もっと賢そうな顔してんの!」
「こんなオッサンじゃなくて、もっと若いんだよ!」
「……君たち、私が上司だということを時々忘れているだろう」
気迫に満ちた二人の表情に後退りながら、リオは記憶と格闘する。不意に、脳裏に浮かんだ漆黒。そういえば、
「ここに来る前、中庭で見た……ような…」
「行くよリオン!」
「サンキュー大尉!」
「え?あ、おい!クライサ、リオン!」
蹴破らん勢いで扉を開け放った二人が廊下を駆けていく。
それを目で追ったリオとロイの視線の先で、
「姫!?」
「「クライサ!?」」
空色が、倒れた。