赤星は廻る | ナノ



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「じ、実は、『戦士の殿堂』をの、乗っ取ろうとしてる男を倒していただきたいんです」

闘技場でユーリたちを待っていたラーギィは、さらに人目につかない辺りまで移動してから、本題をこう切り出した。
受けるかどうかは話を聞いてから決める。そう前置きしたユーリたちも、さすがに驚く。『戦士の殿堂』を乗っ取る、それはこの街を乗っ取ると言っているも同義だ。いきなり物騒な話だ、と青年たちの後方でアカが呟く。

「でも、なんであんたがそれを止めようとしてんの?別のギルドのことだし、放っとけばいいじゃない」

「パ、『戦士の殿堂』には、と、闘技場遺跡の調査を、させてもらっていまして」

「そっか、そういや、この街すっごく古いんだよね」

「も、もし別の人間が上に立って、こ、この街との縁が切れたら、“始祖の隷長(エンテレケイア)”に申し訳ないです」

“始祖の隷長(エンテレケイア)”?
復唱した者たちが、傾げた首をアカに向ける。それに肩を竦めて溜め息を吐いてから、アカはすぐに首を左右に振った。聞いたことはない。というか、いくら情報屋とはいえ、何でもかんでも知っていると思うな。

「あ、すみません……ご、ご存知ないですか。こ、この街を作った古い一族で、我がギルドとこの街の渡りをつけてくれたと聞いています」

「ふーん。古い一族、ね」

ラーギィが『戦士の殿堂』の問題を気にしている理由はわかった。それで、件の乗っ取り男とは何者なのか。尋ねれば、ラーギィはそれまでと同じどもった口調で答えた。闘技場のチャンピオンだ、と。

「はあ?なに、それ」

「や、奴は大会に参加し、正面から『戦士の殿堂』に挑んできたそうです。そ、そして、大会で勝ち続け、ベリウスに急接近しているのです。と、とても危険な奴です。ベリウスの近くから、は、排除しなければ…」

なるほど、正面から挑んできた者なら、『戦士の殿堂』とて追い出すに追い出せないだろう。それで、外部の人間であるユーリたちに白羽の矢が立ったのだ。大会に出て、そのチャンピオンを倒せと。

「まわりくどい……そいつの目的って本当に闘技場の乗っ取りなわけ?」

「もも、もちろん、おお、男の背後には、『海凶の爪』がいるんです!『海凶の爪』は、この闘技場を資金源にして、ギ、ギルド制圧を……!」

アカ。呼ばれて顔を上げれば、レイヴンがこちらを見ていた。見咎められたか。苦笑して、首を振る。
キュモールあたりが考えそうな話だ、キュモールと『海凶の爪』は繋がってる、とまたも耳にすることになったギルド名に思うところを語るユーリたちには、幸いレイヴンの声は聞こえていなかったらしい。彼らが振り返らないうちに、アカは笑みをしまう。

「どちらにせよ、『海凶の爪』が関わっているなら止めないと!帝国とギルドの関係が悪化するばかりです」

「フェローはどうするの?こんなのじゃいつ会えることか」

「で、でも…」

「あなた、本当にやりたいことってなんなの?」

いや、どちらもやりたいことなのだ。
アカは思う。ただ彼女は、その優先順位をもうけられない。他を切り捨てることが、誰よりも下手くそなだけなのだと。

「あ、あの、すみません。難しいでしょうか?」

「難しくはないわ」

ほっとけない病を発症したエステルを責めるような口振りをした割に、そう即答したのはジュディスだった。

「え?」

「やるんでしょう?話を聞いてしまったし」

「う、うん。ギルドとしても放っておけない話、かもしれないし…」

まぁ、それはそうなのかもしれない。現状、一応バランスの取れている形の勢力図に、『戦士の殿堂』のトップが替わることにより起こる変動ははかりかねる。ただでさえ、先日の件で『紅の絆傭兵団』が事実上解体し、ユニオンに大きな穴を作ったのだ。これ以上の混乱は、ギルド間で仕事をすることの多いアカもごめんこうむる。

「で、誰が出るんだい?」

「エステルやリタ、レイヴン、アカにはお願い出来ないよ。これは『遺構の門』に対して『凛々の明星』が受ける話だもん」

「それじゃあ…」

「悪いけど、ジュディとどこかでぶつかるのは勘弁だな」

「あら?私はやってもよかったのに、残念。今回はおとなしくしてるわ」

「首領が出るまでもない。オレで良いだろ?」





闘技場、参戦決定





 


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