25 「ユーリくん」 祭り騒ぎを楽しんでいた人々も床につき、すっかり静まり返った港で見つけた姿に声をかける。青年は少しばかり驚いた顔をこちらに向け、それから呆れた顔をした。 「ったく、宿にいないと思ったら……明日も早いんだから、遅くまでふらふらすんじゃねぇぞ」 「はーい、お母さん」 「それと、酒もほどほどにしとけよ」 ほのかに香る酒の匂いを嗅ぎつけられたらしい。アカは苦笑した。 「心配しなくても、酔うほど飲んじゃいないさ。こっちの知り合いのとこに顔出してきただけだからね」 「ならいいけどな」 「で、ユーリくんは何してたんだい?」 「さっきまでエステルと話してたんだ。アレの話」 と言って空を見上げたユーリに倣い顔を上げると、街を包む結界の輪の向こうに広がる夜空が見える。その中で一際輝く星を見つけて納得した。 「……ああ、凛々の明星(りりのあかぼし)」 凛々の明星。ブレイブヴェスペリア。夜空で最も強い光を放つ星。 「そ。あの星には古い伝承があるっていうから、それを聞いてた」 「伝承ねぇ……たしか、」 ーーその昔、世界を滅亡に追い込む災厄が起こりました。皆が倒れ、力尽きたとき、ある兄妹が現れました。その兄妹は、力を合わせ、災厄と戦い、世界を救いました。妹は満月の子と呼ばれ、戦いのあとも、大地に残りました。兄は凛々の明星と呼ばれ、空から世界を見守ることにしましたーー 「……だったかな」 淡い記憶を辿りながら言葉を続け、終わりを紡いで顔を上げれば、ユーリが驚いた様子でこちらを見ていた。大方、アカが意外にもエステルと同じ話をしたからだろう(ということは、同じ話を二度聞かせてしまったか。少し悪いことをしたかもしれない)。 「ほんと、お前は何でも知ってるんだな」 「たまたまだよ。昔聞いたことがあるだけさ。……それより、大層な名前をギルドにつけちまったね?」 「だな。名前負けしないように頑張らねぇと」 ユーリの苦笑にアカは笑って、それから宿に戻ると歩き出した。だが、「なぁ」とユーリがその背に声をかける。 「お前の目的が、オレには未だに見えねぇんだけど」 「言ったじゃないか。君たちに興味があるって」 いやに真剣味を帯びた眼差しに、アカは平然と返した。トリムの宿で告げた通りだ。そこに嘘はない。 「金になる情報が転がってる気もするしね」 「……ああ、お前が金のために情報を集めんのは知ってるよ。情報屋だもんな」 ーーだけど。 「金のために、命を賭けるようなやつじゃないだろ?」 返答に困った。一瞬、言葉が出なかった。それは自覚している。自覚しているから、何て返したらいいのかわからなかった。 「なのに、お前はオレたちについて来るんだな。なんでだ?」 「……さぁ、気まぐれとしか言いようがないね」 ふぅん、と問うてきた本人にしては素っ気なく返して、今度はユーリのほうが歩き出した。アカの脇を通り、宿のある闘技場へ向かっていく。結局一度も振り返らなかった背中を見送って、アカは呟いた。 「聞かれても、答えなんか出せないよ」 うちが一番聞きたいんだから ×
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