赤星は廻る | ナノ



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なんとか髑髏の騎士を退けると、魔物は鏡の中へと戻っていく。逃げるぞと追撃しようとしたパティを、その必要はないだろうとユーリが止めた。
『澄明の刻晶』は魔物を引き寄せている。ならば自分たちがこれを持つ必要はない、この白骨の船長に返しておさらばしよう。しかし、エステルは言った。

「……わたし、その『澄明の刻晶』をヨームゲンに届けてあげたいです」

『澄明の刻晶』届けをギルドの仕事に加えてもらえないか。エステルの頼みに、カロルは首を振った。今の『凛々の明星』の仕事はエステルの護衛だ。基本的に、彼らのような小さなギルドは、ひとつの仕事を完了するまで次の仕事は受けないのだ。ギルドの信用は、ひとつひとつしっかり仕事をこなしていくことで築かれるのだから。

「あら?またその娘の宛てもない話でギルドが右往左往するの?」

「ちょっと!あんた、他に言い方があるんじゃないの!?」

「リタ、待って…。ごめんなさい、ジュディス。でも、この人の思いを届けてあげたい…待ってる人に」

「待ってる人っつっても千年も前の話なんだよなぁ」

エステルにも、自分の願いに宛てがないことはわかっているのだ。それが皆を困らせてしまうことも。けれど、譲れない。譲りたくない。たとえこの船の者たちの命が千年前に潰えてしまっていても、その思いが千年もの間この船に囚われていたのなら、それを故郷へ送り届けたい。自分たちはその思いを知って、『澄明の刻晶』はここにあるのだから。

「あたしが探す」

さすがのユーリも易々と頷けはせず、やはり無理なのだろうかとエステルは俯く。落ちる沈黙を破った声は、意外にもリタのものだった。

「フェロー探しとエステルの護衛、あんたたちはあんたたちの仕事やりゃいいでしょ。あたしは勝手にやる」

現実主義者の彼女が、まさかそんなことを言い出すとは。出会った当初とはまるで違う様子のリタに、アカは少なからず驚いていた。彼女のこの行動理由は、完全に“エステルのため”だ。魔導器以外に興味が無く、他人を信用する様子のなかった以前の彼女では考えられなかった。確かに初期の頃からエステルに調子を狂わされている節のあったリタだったが、それでもここまでの変化を見せるとは。

「じゃ、ボクも付き合うよ!」

「暇ならオレも付き合ってもいいぜ」

「ちょ、ちょっと、あんたたちは仕事やってりゃいいのよ!」

「どうせオレたちについてくんだろ。だったら仕事外として少し手伝う分にゃ問題ない」

ありがとうございます、と嬉しそうに頭を下げるエステルに改めて目を向ける。つい弛んだ口元を見咎められてか、横からレイヴンが口を出した。

「なーんか嬉しそうじゃない、アカ?」

「んー?……ああ、そうだね。この子たちはホント、見てて飽きないと思って」

「……だな。若人は元気があって良いわ」





『変化』は、まったく面白い





 


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