20 「それにしても助かったわ。なんとか間に合いそう」 ユーリたちが乗ったのはフィエルティア号という名の船。カウフマンは、魚人が出るトリム港近海を離れてよその港へ行けさえすれば、そこからいくらでも船を手配出来るからそれでいいのだそうで、ノードポリカ行きはスムーズに決まった。 「ええ、『海凶の爪』に遅れをとるところでした」 カウフマンと側近の男の会話を聞きつけて、ユーリが口を挟んだ。『海凶の爪』。ちょくちょく聞く名だ。 「そう?兵装魔導器を専門に商売してるギルドよ」 「最近、『幸福の市場』と客の取り合いになってるらしいじゃないか」 「さすが、よく知ってるわね。そうなのよ、今回もし海が渡れなかったら、また大口の取引先を奪われるところだったわ」 「それにしても、連中はどこから商品を調達してるんでしょう」 「それなのよ。兵装魔導器なんて、そう簡単に手に入れられるものでもないし」 カウフマンの疑問を受けてアカは首を振った。その情報は仕入れてない。リタが腕を組み、呟く。 「……まさか、帝国が……?ううん、でも管理は魔導士のほうで…」 その時、船が大きく揺れた。敵さんのお出ましだ。アカとユーリが剣を抜き、他の面々も武器を構えたところで続々と魚人が甲板に上がってくる。 船の上だというハンデはあれど、一行が船を襲った魚人を退けるのにそれほど時間はかからなかった。 しかし、倒した筈の魚人が突然立ち上がる。まだ生きていたのか。ユーリたちは身構えるが、魚人は妙な動きでぶるぶる震えたかと思うと、口から何かを吐き出し、漸く息絶えた。一体何事だ。吐き出されたものへ目を向ければ、見覚えのある金髪おさげに海賊風の服装が目に入る。パティだ。 「……この子の神出鬼没さって、ワンダーシェフ並みだと思うんだが」 「だな。ったく、なんでまた魔物なんかに飲まれてんだよ…」 目を覚ましたパティに事情を聞いてみれば、あくまで明るく少女は受け答えた。 「お宝探して歩いてたら、海に落っこちて、魔物と遊んでたのじゃ」 「よかったな、そのまま栄養分にされなくて」 「運がいいんだか悪いんだかわからんね、君」 何はともあれ魚人は退治したのだし、ノードポリカへ向けて船を出そう。しかし、事件は起きた。一匹残っていた魚人が、操船士であるトクナガを襲ったのだ。 魚人はユーリによって退けられ、トクナガの怪我はすぐにエステルによって治療されたのだが、トクナガは暫し安静にする必要があるとのこと。誰か代わりに操船出来る者はいないか、というカウフマンの問いに、なんとパティが名乗りを上げた。 「世界を旅する者、船の操縦くらい出来ないと笑われるのじゃ」 ……だそうだ。 不安で仕方ないが、他に頼れる者もいないため、とりあえずパティの舵取りで海を進むこととなった。 「世界を旅してる奴はみんな操船出来るらしいぜ、アカ?」 「うちの職業は操船士でも冒険家でもなく傭兵。客守る人間が舵にピッタリくっついてちゃ仕事にならんだろう」 「それもそうか」 「つーか面倒くさい」 それが本音か ×
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