赤星は廻る | ナノ



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『幸福の市場』の社長ならば船を出してくれるかも、と期待を胸にカウフマンに声をかけると、彼女は笑顔で応えてくれた。あらあなたはユーリ・ローウェル君、と名乗った覚えもないのにしっかりフルネームで呼んでくださった。手配書の効果ってすごい。

「いいところで会ったわね。あなたたちにピッタリの仕事があるんだけど」

つまりは荒仕事か。素早く察してユーリは溜め息を吐く。『あなたたち』を指しているのがユーリとアカだとわかるから、これは間違いない。

「聞いてるかもしれないけど、この季節、魚人の群れが船の積荷を襲うんで大変なの」

「あれ?それっていつも、他のギルドに護衛を頼んでるんじゃ…」

「それが、いつもお願いしている傭兵団の首領が亡くなったらしくて今使えないのよ。他の傭兵団は骨なしばかり。私としては頭の痛い話ね」

なるほど、さっきのはその骨なしか。アカは先程逃げ出していった男たちの姿を思い浮かべ、記憶にあるギルドと照らし合わせる。確かあれは『蒼き獣』。以前情報を提供してやったことがあったが、確かに骨なし連中だった。可哀想に、これで彼らはカウフマンのブラックリストに追加されてしまっただろう。

「その傭兵団はなんてところ……ですか?」

「『紅の絆傭兵団』よ」

カロルが嫌な予感を感じながら問えば、予想通りの答えが返ってきた。ジト目のリタを始めエステル、レイヴン、ジュディス、アカが一斉にユーリへと目を向ける。

「誰かさんが潰しちゃったから」

「みんな同罪だろ…」

カウフマンに聞こえないよう小声でやりとりしているユーリらをほうって、アカが一歩前に踏み出した。

「物は相談なんだがね、うちらノードポリカに行きたいんだ」

「あら、アカにしては珍しい。今回は大所帯なのね」

「ああ。今はこの子らのギルドを贔屓してんのさ。できたてで今後が楽しみでさ」

チラリと隣に目を向ければ、『凛々の明星』っていうんです!とカロルが胸を張る。

「素敵!それじゃ商売のお話しましょうか。相互利益は商売の基本。お互いのためになるわ」

「悪いが仕事の最中でな。他の仕事は請けられねぇ」

「それなら商売じゃなくて、ギルド同士の協力ってことでどう?それならギルドの信義には反しなくってよ」

「いーんじゃないかい?『幸福の市場』と仲良くしとくと色々お得だしね」

何だかうまいこと言いくるめられた気がするが、とりあえずよしとしておこう。
しかもカウフマンは、無事に護衛を果たしてノードポリカに着けば、使った船を進呈してやると言うのだ。ボロ船とはいえ破格の条件には違いない。

「なんだいカウフマン、珍しく太っ腹じゃないか」

「『凛々の明星』発足祝いってとこかしら?アカが贔屓するギルドってのも珍しいしね」

「よく言うよ、商売上手め」





何はともあれ、船確保!





 


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