赤星は廻る | ナノ



16

 



キュモールたちを追って街を出たユーリたちは、街道の途中で足を止めた。結局キュモールたちを取り逃がしてしまったのだ。
それならそれで仕方ない、とユーリはアカを振り返る。

「アカ、ここはどのあたりだ?」

「んー、トルビキアの中央部になるかね。東に少し行けばトリム港が見える筈だよ」

「ヘリオードに戻るより、このまま港行ったほうが良さそうだな」

アカの指差した方向へユーリが目を向ける。えっ、と声を上げたのはエステルだ。

「キュモールはどうするんです!?放っておくんですか?」

「フェローに会うというのが、あなたの旅の目的だと思っていたけど」

「そ、それは…」

「あなたのだだっ子に付き合うギルドだったかしら?『凛々の明星』は」

ジュディスの言葉は冷たく聞こえるが、ユーリたちは何も言わない。否定の言葉が見つからないのではなく、正直に言えば彼女と同意見なのだ。
エステルが個人的なワガママで言っているのではないことはわかる。彼女を突き動かすのは、あくまで優しさなのだ。キュモールをあのまま逃がすわけにはいかない。またどこかで、罪のない人々が彼に傷つけられることになるかもしれない。それはわかる。ユーリたちとて、キュモールの勝手を許す気はない。

「……ご、ごめんなさい。わたし、そんなつもりじゃ…」

だが彼女は、目先のことに振り回され過ぎなのだ。目的を定めてある筈なのに、それを忘れてしまう。芯がブレてしまっている。
そのことに自分でも気付いたのだろう、エステルはジュディスの言葉にハッとして、素直に謝った。

「ちょっと、フェローってなに?『凛々の明星』?説明して」

「そうそう、説明してほしいわ」

知らない名が続いたことに戸惑いを感じてリタが問えば、同意するような声が隣から続く。それは聞き覚えのある、しかしこの場で聞こえる筈のない声で、リタは勢いよくそちらを向いた。はたしてそこには、紫色の派手な羽織りを着た男が立っていた。

「ちょ、ちょっと、何よあんた!?」

「なんだよ。天才魔導少女。もう忘れちゃったの?レイヴン様だよ」

「何よあんた」

「だから、レイヴン様…」

男、ことレイヴンは飄々とした物言いで答えるが、リタの眉間には皺が刻まれ、眼光は鋭さを増す。物凄い形相で睨みつけられて、レイヴンは顔を背けて小さく呟いた。まったく、怖いガキんちょだ。

「んで?何してんだよ」

「お前さんたちが元気すぎるから、おっさんこんなとこまで来るハメになっちまったのよ。なぁアカ?」

頷くアカの隣でカロルが首を傾げた。だがレイヴンはその場で明確な答えは返さず、とりあえずはトリム港へ行って落ち着こうと提案する。

「そこでちゃんと話すからさ。おっさん腹減って……」

「いつまでもここに居てもしゃあねぇしな。とりあえずトリム港へってのはオレも賛成だ」

「では、トリム港かしら。それでいいわね?」

「はい。構いません。ごめんなさい。わがまま言って」

エステルはそう謝罪して、深々と頭を下げた。自分の非を素直に認める。とても素直ないい子だ。アカは目を細めて、その様子を見つめていた。





なのにどうして、『世界の毒』と?



SKIT
アカとイエガー





 


……………………

index



×