15 アカは、大きく振り回された鎌を受け止めるような愚行を犯さなかった。体格も武器の大きさも、アカとイエガーでは比べるまでもないのだ。そんなことをして力負けしないわけがない。 上体を反らせた勢いで後転し、地に双剣ごと手をついたアカは、たった今かわした鎌が長銃の形をとったのを確認すると、足が地面につくのと同時に強く蹴った。エアルを凝縮した弾が撃ち出される。三発続いたそれは全てアカの頭上を過ぎ、姿勢を低く保ったままイエガーの懐に飛び込んだアカは、双剣を交差しながら大きく斬り上げた。 「イエガー様!」 しかし、剣を伝った手応えは肉を裂くものではなく、短く舌を打ってアカは後退する。両手の剣は、どちらも相手の剣によって防がれた。イエガーの両脇を固めるように、二人の若い女が立つ。ゴーシュとドロワット。それぞれ緋色と翡翠色の髪をツインテール風にした少女たちで、赤眼の連中とは一転して短いスカートを穿いたり可愛らしい格好をしている。 「……邪魔が入ったね」 「今のミーのビジネスは、ユーを倒すことではありマセーン。またの機会にしましょう、オーケー?」 「いいも悪いも、その二人まで相手する気はうちにゃないさ。……ま、後ろの子らが何て言うかは知らんけどね」 肩越しに後方へ視線をやれば、赤眼を片付けたユーリたちが武器を構え直したところだった。彼らの敵意はイエガーに向いていたが、問答無用で襲いかかるつもりはないらしい。 イエガーは向けられた敵意にしかし笑みで返し、余裕に満ちた様子で前髪を払った。 「なかなかストロングなボーイたちですね」 「キュモール様!」 そこに駆け込んできた騎士が、慌てた様子で報告した。フレン隊が来た、と。 「さっさと追い返しなさい!」 「ダメです、下を調べさせろと押し切られそうです!」 「下町育ちの恥知らずめ……!」 「ゴーシュ、ドロワット」 イエガーに呼ばれた少女たちが手に持った何かを地面に叩きつけた。途端に辺りを煙が覆う。 「うわ……これ、なに!?」 「さあ、こちらへ」 「逃げろや逃げろ〜!すたこら逃げろ〜!」 張られた煙幕にカロルが戸惑っていると、煙の向こうでゴーシュとドロワットの声がした。続いてキュモールの声が届く。 「今度会ったら、ただじゃおかないからね!」 お決まりの捨て台詞だ。ユーリたちはすぐに彼らを追おうとするが、強制労働させられていた人々をそのままにもしておけない。追うか追うまいか。迷う彼らの背を押したのは、アカだ。 「フレン隊が来てるっていうんだ。ここは騎士さんたちに任せて追ったらどうだい?」 否の声はなかった。アカと目を合わせたユーリが頷き、走り出した彼に一同が続く。 駆ける足はそのままに背後を窺ったアカの目に、労働者キャンプに押し入ってきた青色の騎士たちの姿が映った。 奴らを逃がすな! ×
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