14 「で?あのイエガーってのは一体何者なの?」 腕を組み鋭い目をアカに向けるリタに、ユーリは苦笑した。イエガーにナメられて腹が立っているのはわかるが、アカにあたっても仕方ないだろうに。 「ギルド『海凶の爪』の首領さ」 「『海凶の爪』って……確か、兵装魔導器を専門に商売してるギルドだっけ?」 「そう。それと同時に……あー、前に何度か赤眼の集団に襲われたことがあったろう?あれのボスでもあるんだよ」 「赤眼の…」 どうやら『海凶の爪』は表向きは武器・兵器の売買、裏では暗殺業を担っているらしい。どちらにせよろくなギルドではない。 そんなろくでもない奴らから、閉じ込められている人々を解放してやらねば。 昇降機で下りた労働者キャンプは、想像以上に酷い状態だった。テントはところどころ破れ、小屋も天井に穴があいたりと、衛生環境が悪いことは簡単に見てとれた。鞭を持った騎士に怒鳴り散らされ、必死になって働く人々は擦り傷だらけで、衣服もぼろぼろで汚れている。 憤りで顔を赤くしたエステルを宥め、暫し身を隠している間に、アカが情報収集から帰ってきた。ここで働かされている人々は、街ではなく、ダングレスト侵攻のための軍事基地を建設させられているのだそうだ。貴族のための街、というのは表向きの目眩ましで、本当は巨大な施設を作ろうとしているらしいのだとアカは言う。 「早いとこ頭を潰そう。このままじゃ、ドンに報告しに帰らなきゃならん」 「ああ。キュモールのとこに行こうぜ」 「一番奥だよ。あのでっかいテントの向こう側にいた」 アカの言葉に従ってキャンプの奥へ進むと、倒れた男性を蹴り飛ばすキュモールを発見した。その向こうにはイエガーの姿もある。サボってないで働け、とヒステリックに怒鳴り散らし、なおも男性を蹴り続けるキュモールにリタやジュディスも顔を顰めた。 アカの前でしゃがみ込んだユーリが、彼女が疑問を抱く前に足元の石を拾って立ち上がる。そして歩き出すと、慌てた様子でカロルが呼び止めるが、ユーリは振り返りもせず、石を持った手を振りかぶった。彼の手を離れた石は、緩く弧を描きながら前方に飛び、見事キュモールの額に命中した。 「だ、だれ!」 血の滲んだ額を押さえながら辺りを見回した彼の視界にユーリの姿が映る。 「ユーリ・ローウェル!」 どうしてここに、と問うや否や、その後ろから現れたエステルが憤りを露にキュモールを睨み付けた。 「ひ、姫様まで……!?」 「あなたのような人に、騎士を名乗る資格はありません!力で帝国の威信を示すようなやり方は間違ってます!」 武器を捨て、騙して連れてきた人々も解放しろ、と張り上げられた声に、しかしキュモールは不機嫌そうに顔を顰める。 「世間知らずの姫様には、消えてもらったほうが楽かもね。理想ばっかり語って胸糞悪いんだよ!」 「騎士団長になろうなんて妄想してるヤツが何言ってやがる」 ユーリが言えば、キュモールはぐっと言葉に詰まり、またヒステリックにイエガーを呼んだ。 「イエガー!やっちゃいなよ!」 「イエス、マイロード」 ニヤリと笑んだ彼がキュモールの前に立ち、長銃のような武器を鎌に変形させると、他のテントや小屋の陰から現れた赤眼たちがユーリらを囲んだ。舌打ちし、鞘を飛ばしたユーリに並んでいたアカが、双剣を抜きながら一歩前に出る。 「そっちの赤眼は任せたよ」 「アカ?」 「こいつはうちがもらう」 イエガーに向けられた剣先と銀の眼光、刻まれた笑み。それを窺い見たユーリは短くああとだけ返し、背後の赤眼に向かって駆け出した。 「おお、アカとバトルしなければならないなんて、ベリーベリー残念でーす」 「おや、うちは嬉しいがね」 あんたを仕留める機会が出来たんだから ×
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