12 突然の声に驚いた面々が振り返った先には、きょとんとした幼い顔立ち。赤い髪。見慣れた人物。 「アカ!」 駆け寄ってきたカロルの、大きなリボンのついた頭を撫でながら、彼女ーーアカは笑みを浮かべた。ダングレストを発つ時には挨拶が出来ず、顔を見たのも少し久しぶりな気がする。実際は、そう何日も経っているわけではないのだが。 「や。元気そうだね」 「う、うん…」 「っていうかホント何やってんの?」 またアカは怪訝そうな顔になる。まぁそりゃそうだろう。昇降機の見張りをする騎士から隠れるように、結界魔導器の裏に五人と一匹。しかもそのうちの半数以上が妙な格好をしているのだから。 「エステルはフレンが卒倒しそうな格好してるし、カロルはピンクだし、ジュディスはなんかふわふわだし、ユーリは黒いし、リタは……だし」 「え、卒倒……です?フレンが?」 「……ボクだって、好きでこんな格好してるわけじゃないよ」 「ふふ、かわいいでしょう?」 「オレはいつも黒いだろ」 「なんであたしへの感想は伏せるのよ!」 それぞれに反応する面々に外れて、ラピードが呆れたような鳴き声を零した。まあ、とりあえずはもっともな疑問だろう。 「まったく、君らがなんか面白そうなことしてるから、出てくるタイミング計っちゃったじゃないか」 「ってことは見てたんじゃない!!もっと早く出てきなさいよ!!」 「……リタ、あんまデカイ声出すと見張りにバレるぞ」 どうやらあの騎士をどかそうとしているらしい、ということまではアカも状況でわかったようだが、労働者キャンプ云々の話まではさすがに読めなかったのだろう。ユーリが説明すれば、彼女はなるほどと手を打った。 「ようは下に行きたいから、あの騎士を昇降機から引き剥がしたいと」 「ま、そういうことだな」 「そんならうちに任せときな。あそこ、通れるようにしてやるから」 そう言ってニヤリと笑うアカ。ユーリらは戸惑うばかりだ。この流れでのその発言、まさかアカまで色仕掛けを…… 「するわけないだろう」 ……顔に出ていたか。呆れたふうに息を吐き、否定した彼女はもちろん衣装を変えることもなく、普段と何も変わらぬ足取りで騎士の元へと向かった。 あれだけ自信満々に出ていったのだから何か策があるのだろうが、心配なことに変わりはない。特にカロルが不安そうに様子を窺っている先で、アカは普通に騎士と会話を始めた。内容は、この先に行きたいのだが通してもらえないか、とかそんなところ。 「ダメだダメだ!この先の労働者キャンプは危険だからな!」 そしてもちろん通行は拒否される。ガクリと肩を落とすカロル。溜め息をつくリタ。……しかし、アカはまだ戻ってこない。ちょいちょいと手招きのような動作をし、騎士が軽く身を屈めると背伸びをしてその耳元らしき辺りに口を寄せる。 「……?アカ、何してるんでしょう?」 「内緒話……みたいだけど…」 カロルの言葉の通り、声は聞こえないが何事かを囁いているようだった。ユーリらは揃って首を傾げるが、その瞬間、騎士の纏う空気が一変する。弾かれるようにアカから身を離し、そのまま暫し固まっていたが、最終的には彼女に頭を下げた。 「……どうぞ、お通りください……」 何を言った、何を。 涙混じりの声、震えてカチャカチャと鳴る鎧。フルフェイスの兜の下の顔は見えないが、恐らく真っ青になっていることだろう。可哀想に。 ご機嫌な笑顔で戻ってきたアカに、彼に何を告げたのかと問えば、 「いやぁ、たまたま、偶然、あの騎士さんの個人情報を知ってたからさぁ」 と屈託のない笑顔が崩れないまま返ってきた。 「……ユーリ。ボク、騎士団よりアカのほうが恐いかもしれない…」 「奇遇だな、首領。オレも同意見だよ」 とりあえず、敵にならないことを祈った ×
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