10 デズエール大陸に渡るにはトリム港で船を調達する必要があり、トリムに行くにはヘリオードを通らねばならない。そういえば、結界魔導器が暴走した後のことを何も知らないな、と思い出し、ついでに様子を見ていくことにした一行だが、到着した街は夜だということを抜きにしても以前より明らかに閑散としていた。 カロルが言うには、街建設の労働がキツくて逃げ出す人が増えているらしい、との噂がダングレストで流れているそうだが。ほっとけない病を発症させたエステルに応じて少し探ってみることにし、とりあえずその晩は宿で休息をとることにした。 翌朝、まずは結界魔導器の様子を見に行き、どうやら問題はなさそうだということに安心するや否や、突然爆音のようなものが聞こえてユーリたちは顔色を変える。音の出どころは、以前彼らが一時的に捕らえられたことのある、騎士団の詰所だった。 「よくもこんなところに閉じ込めたわね!あたしが誰だか知ってんの!?」 責任者出せ!と怒り満面に怒鳴り声を上げ、術の詠唱をしてはファイアボールを飛ばしているのは一人の少女だった。場所は騎士団詰所のホール。その床には倒れた騎士が何人も。エステルらに先行して建物の中に入ったユーリは、それを見て、うわ、と呟いた。その少女の姿に、心当たりがありすぎた……というか端的に言えば、彼女が知り合いだったから。 「……リタ、なんでこんなところに……」 そう、天才魔導少女ことリタが、先程から魔術で騎士たちをぶっ飛ばしているのだ。責任者を呼んでくるから大人しくしろ、と言った騎士にすら、うるさいと怒鳴って火炎弾をぶつける。滅茶苦茶だ。 なお詠唱を続ける彼女に駆け寄り、腕を掴んでやると、リタは離せと暴れ出した。 「落ち着け、オレだ、オレ」 「……ユーリ……?」 驚きに目を見開いた彼女が漸く暴れるのをやめたので、ユーリは安心して手を放す。そこで漸く追い付いた仲間たちが、出入口のほうから入ってきた。 「だ、大丈夫ですか!?……リタ……?」 「……エステル……」 とりあえず建物を出て、落ち着かせたリタから事情を聞く。エアルクレーネ調査のために一足先にダングレストを出た彼女は、ここの結界魔導器を見ておこうと思って寄ったらしい。それでまた余計なことに首を突っ込んだのかと、呆れたふうに言うユーリに、しかしリタは否定しない。 「夜中こっそりと労働者キャンプに魔導器が運び込まれてたのよ。その時点でもう怪しいでしょ?」 「それでまさか、こそこそ調べまわってて捕まったってわけか」 この街はまだ建設途中で、その建設に従事する労働者のキャンプが街の南側にある。結界魔導器の置かれた広場の近くに昇降機があり、それでキャンプに下りられるのだが、そこにはいつも見張りの騎士がいて侵入は難しそうだ。 「違うわ。忍び込んだのよ」 「……で、捕まったんだ」 「だって、怪しい使い方されようとしてる魔導器ほっとけなかったから……そしたら、街の人が騎士に脅されて無理矢理働かされててさ」 ーーなるほど。 それが噂の真相か ×
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