06 「オレはこのまま街を出て、旅を続ける」 街と平原を結ぶ橋の上。飛び回る巨大な鳥とそれを砲撃する巨大兵器を見ながら、ユーリは言った。 「帝都に戻るってんなら、フレンのとこまで走れ。選ぶのはエステルだ」 そして傍らのエステルを見下ろす。はっと目を見開いた彼女は俯き、眉を寄せて黙り込んだ。黄昏色の光に染まる横顔を、ユーリも黙って見つめる。 「……わたしは……旅を続けたいです!」 振り返った少女の真っ直ぐな瞳。紛れもない、彼女自身が選んだ道。ユーリは微笑み、手を差し出した。不思議そうにそれを見下ろしたエステルは、促されるままにその手を握る。 「そうこなくっちゃな」 楽しそうに、まるで悪戯でも始めようかという子どものように笑ったユーリは、彼女の手をしっかりと握り返した。 瞬間、背後でヘラクレスの砲撃による流れ弾が命中し、橋が音を立てて崩れ落ち始める。カロルの悲鳴を聞きながら、ユーリはエステルの手を引き走り出した。退路が断たれても、振り返らず、街の外へと。 「ジュディス!?」 橋を渡りきろうというところで、一人の女性とすれ違った。ガスファロストで共に闘ったクリティアの美女、ジュディスだ。橋の手摺付近に立ち、空を飛ぶ巨大な鳥を見ていた彼女に、慌てた様子でエステルが駆け寄る。 「危ないことしないで!」 「心配ないわ。あなたたちは先に行って」 しかし姫君はその言葉に耳を貸さない。ジュディスの手を取り、再び平原のほうへと足を向ける。 「さあ、早く!」 「あら、強引な子」 やれやれと言いたげな様子の彼女が促されてその場から動くと、街の上空を離れなかった巨大鳥も動きを見せた。不意に翼を翻すと、街から遠ざかり始めたのだ。ヘラクレスの砲撃も止み、橋の崩落も落ち着いた。 何故帰っていくのだろうとカロルは不思議そうに問うが、もちろんユーリたちにもわからない。とりあえずは街を離れようとするが、その時背後から彼の名を呼ぶ声があった。 「待つんだ、ユーリ!それにエステリーゼ様も!」 分断された橋の向こう側に、フレンは立っていた。面倒なのが来ちまった、とユーリが苦笑する。 「ごめんなさい、フレン。わたし、やっぱり帝都には戻れません。学ばなければならないことが、まだたくさんあります」 「それは帝都にお戻りになった上でも…」 エステルは首を振る。帝都には、ノール港で苦しむ人々の声も、バルボスやラゴウの悪行の知らせも届かなかった。 「自分から歩み寄らなければ何も得られない……それをこの旅で知りました。だから……わたしは旅を続けます!」 「エステリーゼ様…」 そこで、エステルの背後からユーリが一つの魔核を投げた。下町の水道魔導器の魔核だ。それを受け取ったフレンが困惑した様子で顔を上げるのを見て、ユーリは笑った。その魔核、下町に届けといてくれ、と。 「帝都には暫く戻れねぇ。オレ、ギルド始めるわ」 その言葉にハッとしたのはカロルだった。 「ギルド……それが君の言っていた、君のやり方か」 「ああ。腹は決めた」 「それは構わないが、エステリーゼ様は……」 「頼んだぜ」 続くフレンの言葉は聞かない振りをして、カロルへと視線を移す。 「言うのが逆になっちまったけど、よろしくな、カロル」 「ユーリ……うん!」 心底嬉しそうに笑った少年と手を叩き合い、それから街を後にすべく足を踏み出した。エステルは橋向こうのフレンに一つ会釈をしてから、ユーリたちの後を追う。フレンはそれを、呆然と見送ることしか出来なかった。 いざ、新たな旅路へ ×
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