05 その姿は燃え上がる炎のようだった。大きな翼を羽ばたかせ、そこらの魔物では比べ物にならないような巨体が頭上を舞う。 (魔物か?……だが結界が破られたわけじゃない。ならどうして結界の中に……) 巨大な鳥のような生き物は暫し空を旋回していたが、不意に翼の角度を変え、高度を下げた。そして街と東の平原を結ぶ橋の近くまで降りると、翼をはためかせて一定の高さを保ち、橋の上をじっと見つめる。 屋根伝いに行ける場所まで近付こうと駆けるアカは、途中倒れた騎士たちを何人も見た。怪我を負ってはいるが、とどめを刺された様子はない。おそらくはあの巨大鳥には何かしらの目的があり、それを邪魔する者を翼で起こした突風で薙ぎ払っただけ、ということなのだろう。その証拠に、膝をつくフレンやその前に立ち剣や杖を構えるソディアとウィチルのほうを見向きもしない。視線が注がれているのはただ一点のみ。 「……忌まわしき、世界の毒は消す」 その時、巨大鳥が人の言葉を話すのを、アカはしかと聞いた。橋の上で倒れた騎士に治癒術をかける、エステルへと向けられた言葉を。 (……世界の、毒……?) 「騎士団の精鋭が……やむを得ない、か」 ふと、耳に届いた別の声にアカは目を見開いた。地上を見下ろせば、膝をついたまま苦悶の表情を浮かべているフレンと、その隣には宿から出てきたらしいユーリ、そしてカロルの姿(リタの姿がないということは、既に彼女は発った後なのだろう)。更に、ユーリらの近くに立つのは。 「ヘラクレスでやつを仕留める!」 赤を基調とした鎧に身を包む男、帝国騎士団長アレクセイ・ディノイア。彼が連れていた騎士に指示を出したところで、その横をユーリが駆け抜けた。 「ローウェル君、待ちたまえ!既に手は打った!」 「冗談!エステルが食われるのを黙って見てられるか!」 ユーリが走る先、エステルを向く巨大鳥の嘴が大きく開く。喉の奥には燃え盛る火炎が見えた。ブレスを吐くつもりなのか。ユーリの舌打ちに重なるように、別の場所で爆音が轟いた。 川の向こうで動く島。……いや、島のような巨大な移動要塞だ。ごつごつとした甲羅のような表面は無数の砲門で覆われ、中央の一際大きな主砲がその破壊力を想像させる。帝国の誇る巨大兵器、ヘラクレス。 その砲門から遠射された複数の火球が、羽ばたいていた巨大鳥をまともにとらえた。巨大鳥は空中で大きくバランスを崩し、体勢を整えるように高く舞い上がる。 「……こりゃ、巻き込まれる前に逃げたほうがいいかな」 橋の上でエステルの元に駆け寄ったユーリとカロル、ラピードは、暫し立ち止まっていたがその後すぐに駆け出した。エステルを連れ、街の外へと。その背後でヘラクレスの流れ弾が橋に命中し、青年たちの行動を見届けようとしたアカもさすがに下がろうと判断した。 危険地帯から離れ、街の奥に向かって屋根の上を飛ぶ。一応巻き込まれない位置までは来れただろうか。振り返り、アカは空と地上の両方に注意を向ける。ーーその一瞬、巨大鳥と目が合ったような気がした。 ……いや、気のせいだよね? ×
|