赤星は廻る | ナノ



04

 



ダングレストの地域一帯にはエアルの影響か特有の性質があり、夜以外は黄昏時の空が街を覆う。
その黄昏の空を、ユニオン本部の中からアカは眺めていた。ダングレストの空など見慣れたものだが、こういった何もない状況というのも嫌いではなかった。

ラゴウが死んだ、という情報はまだ誰の耳にも入っていなかった。彼が姿を眩ましたことを知っている者たちはいたが、アカも誰にも事実を伝えなかった。ユーリのためではない。自身にとって、それを誰かに知らせることは大した利益にならないからだ。

「おりょ、どうしたのよ。こんなところで黄昏れちゃってさ」

「……うるさいのが来たね」

たまたま通りかかったらしいレイヴンにアカは嘆息し、屋内へと向き直る。彼のどこか疲れたような表情は、友好協定の話し合いの際ギルド側の参謀を務めていたから、そのせいだろう。

「お仕事ご苦労さん」

「ほーんと。お前さんは仕事ないの?」

「ああ。ユーリくんたちも目的は達したみたいだし、うちもやることないしね」

ユーリは目的である水道魔導器の魔核の奪還に成功し、本来の旅の目的は達したことになる。エステルはいい加減城に戻らないといけないらしく、迎えの者が来ていた。今頃カロルや、エアルクレーネの調査に向かうため街を出るリタと、別れの挨拶をしていることだろう。

「お前さんは嬢ちゃんに挨拶したの?」

「んー?別に」

「いいの?帝都……しかも城じゃ、会おうと思えばいつでも会える、は言えないでしょ」

「ユーリくんなら言うだろうよ。忍び込んだりしてさ」

「お前さんは無理でしょ、城」

「……まぁね」

アカは目を合わせないままそう返し、止まっていた足を踏み出す。少し嫌な気分になった。こんな時は酒に走るが吉。
しかし、その肩を掴んだ手があった。レイヴンだ。何、と肩越しに睨みをきかせれば、そこにあったのはいやに真剣な顔つきだった。

「今日は下手に出ないほうがいい」

「……あんたがその顔するってことは、あの人か」

そうだ、と縦に振られた首。アカはまた大きく溜め息をつき、本部の外を向いていた足を反対側に向ける。だが、その時耳に届いた音に、アカだけでなくレイヴンも目を見開いた。鳥の鳴き声に似た音、そして地を揺らす爆発音。魔物の来襲か。窓に駆け寄り外を見れば、空を駆ける巨体を視界にとらえた。

「アカ!」

その瞬間、アカは駆け出していた。足は一度向けられた建物の奥でなく、外へ。咎めるようなレイヴンの声を背に受けても止まらず、返事を残すこともない。
そして本部を出れば、すぐに連なる建物の屋根へと飛ぶ。そこから仰ぎ見た空には赤く大きな影。





なんだ、あれは





 


……………………

index



×