03 「私に手を出す気ですか!?私は評議会の人間ですよ!あ、あなたなど簡単に潰せるのです!」 月光を浴び、ほんの一瞬輝く刃。瞬く間に打ち倒された護衛たち。ゆっくりと前に進む黒い影。対してラゴウは、じりじりと後退していく。 「こ、こんなことをして……無事ではすみませんよ!」 全身に殺気を漂わせた影ーーユーリ・ローウェルは、そこで初めて口を開いた。 「法や評議会がお前を許しても、オレはお前を許さねぇ」 低い声、自身を射抜くような鋭い眼光にラゴウは震え上がる。身を翻し、逃げようとしたその背に、ユーリは剣を振るった。上がる血飛沫。致命傷を負ったラゴウはよろよろと橋の欄干に近付く。 「……あと少しで『宙の戒典(デインノモス)』を……この手に…っ」 苦悶の声を発し、血を吐きながら、ラゴウの体は欄干を乗り越え宙を舞った。血塗れになった長衣と共に、橋の下へと落ちていく。静かな街に響く水飛沫の音。ユーリは剣を持ったまま、表情を変えずにそれを眺めていた。 ユーリが宿泊している宿屋に戻ると、店の前にその姿があった。 「……ラピード」 地面に伏せ、丸くなっているラピードはユーリが近付いても動こうとはしない。眠っているわけではないようだ。しっかりと開いている目をユーリは見つめ、しかし何も口にすることはなく、店の中へと足を進めた。 馬鹿なんじゃないか、と思う。 「理解出来ないな」 橋を眺めながらアカは呟いた。そこに黒い影は既にない。もちろん、ラゴウの姿も。 「何考えてんだろうね、あいつは」 ラゴウのような人間は、何度捕まろうと、死ぬまで同じことを繰り返すだろう。だから、それをやめさせるには、殺すほかないのかもしれない。だが。 「他人のために進んで罪を被るなんてさ」 馬鹿じゃないのか。呟くアカの声には、多大な疑問と、ほんの少しの戸惑いが含まれていた。 ラゴウを斬り捨て、立ち去るユーリの姿が目に焼き付いて離れない。遠目には表情までは見えなかったが、彼の纏う空気がどういったものかははっきりわかった。 (……なんで、) 何の感情もなかった。橋へ向かう間も、そこから去った後も。ラゴウを斬った瞬間でさえ、ユーリからは何の感情も窺えなかった。 正義という旗を掲げてやったことではない。感情に任せた行動でもない。誰かに命令されたわけでもない。その行いが罪人のそれだと知っていながら、自身の正義が正しいものではないとわかっていながら、自ら選んだ道を進む覚悟をしたのだろう。本人も答えを出せていないーー答えを望んでいない、『誰か』のために。 (なんで、そこまでして…) そんな覚悟までして、他人のために動くのだ。他人を守ろうとするのだ。ほうっておけばいい。見ない振りをすればいいのに、どうして。どうして、手を汚してまで。 「……どうして、うちがこんなに気にしなきゃならないんだ」 この時うちは、はじめて彼に興味を持った ×
|